修学旅行は北朝鮮へ「本音なんて話せません」 朝鮮学校の卒業生が振り返る“悪夢の2週間”
“体制批判”を口にしてしまった親友の命運は――?
夜に学校の先生が見回りに来たことはなかったが、昼夜問わず国家ぐるみで見回りされていた。それが北朝鮮、どこで誰が聞いているかわからない環境だ。ことわざっぽく言うと、“壁に金日成あり、障子に金正日あり”だ。 「~~(親友の名前)! 頼む! もうやめてくれ! 一緒に日本帰ろう!」 すると、ガイドが壁からひょっこり立ち上がって現れた。 「ちょっといいですか?」 ガイドの姿にようやく気づいた親友。一瞬顔が引きつったように見えたが、すでに詰んでいる、と何とも言えない顔をしていた。ガイドの男性の表情はサングラス越しのためわからない。 「私は金正恩同志を信じています。ですから、金正恩同志に一生ついていきます」 彼は僕の親友に何も言わず、ゆっくりとその場を去っていった。 とりあえず親友が無事でよかった。北朝鮮では本音なんてもちろん言わない。言わないんじゃない言えない国なのだ。僕はこの修羅場の中、反町隆史さんの歌が頭の中でリフレインしていた。 「言いたいことも言えないこんな世の中はPYONYAN」
軍事訓練所を視察。「軍人の話を聞く会」で遭遇した“壊れたラジオ”
修学旅行中、僕たちは北朝鮮のいろいろな軍事訓練所に行った。 成人男性の軍事訓練所、成人女性の軍事訓練所、同世代の男子の訓練所……。 とくに成人男性の軍事訓練所が思い出深い。僕らが到着すると、かなりの歓迎ムードだった。まず、お互いに合唱を歌い合った。そして、双方が北朝鮮の曲を何曲か歌い終えると懇談会が行われた。 軍人さん数名と朝鮮学校の生徒数名が各グループに分かれて席につくと、軍人さんが僕たちに質問してきた。「いくつに見える?」 「このノリって万国共通なんや」 同級生の1人が答える。「24歳ですか?」「違う」「22歳ですか?」「違う」「君は何歳だと思う?」僕に質問してきた。ここは一発ボケをかまさないといけないと思い、 「マフンサル? (朝鮮語で40歳)」 すると、軍人さんたちが、「マフンサル! マフンサル!」と喜び、笑いを取ることができた。北朝鮮だったら天下を取れるのではないかと思うほどウケたのだ。 会は進み、軍人さんが僕に言った。 「ただこの場所に来たと日本に帰ってお父さんとお母さんに言うのではなく、金正日将軍様が先軍政治を発表された由緒ある場所だとしっかり伝えないといけません」 「はい、わかりました」 「ただこの場所に来たと日本に帰ってお父さんとお母さんに言うのではなく、金正日 将軍様が先軍政治を発表された由緒ある場所だとしっかり伝えないといけません」 またまったく同じことを言ってきた。 「はい、わかりました」 「ただこの場所に……」 誇張なしで言うが、このラリーが5回は続いた。 僕はなんとか違う話題に変え、懇談会をやり過ごした。懇談会が終盤にさしかかったときに、軍人さんが僕の目を見て、 「ただこの場所に……」 もうええわそれ! 何回言うねん!! 日本に帰国してから、あの軍人さんの言葉を思い出した。金正日が先軍政治を発表した場所やって言わなあかんって言ってたなぁ~。僕は父と母にこう伝えた。 「何回も同じ話ばっかりしてくる軍人がおったで」 *** この記事の前編では、同じく『面白くてヤバすぎる! 朝鮮学校』(ビジネス社)より、小中高の12年間を朝鮮学校で過ごしたパクユソン氏による、 “ヤバすぎる”学園ライフをご紹介する。
【著者の紹介】 パクユソン 1997年生まれ。兵庫県神戸市出身。小中高12年間を朝鮮学校に通い、関西学院大学法学部法律学科に進学。その後、吉本興業のお笑い養成所に入学(NSC大阪43期)。2021年からピン芸人として活動。2023年から自身のYouTubeチャンネル「パクユソンちゃんねる」で朝鮮学校時代の思い出話を始める。現在はYouTubeチャンネル登録者数14万人、TikTokフォロワー数6万人。SNSを主な活動の場にしており、毎月大阪の楽屋Aや舞台袖で独演会を開催している。本書が初の著書となる。 デイリー新潮編集部
新潮社