修学旅行は北朝鮮へ「本音なんて話せません」 朝鮮学校の卒業生が振り返る“悪夢の2週間”
本音は言えない。とにかくつらかった夜のディスカッション
朝から夕方までバスに乗って観光地を回り、ホテルに帰り夕食を食べ終わると1日が終わる……とはならなかった。夜のディスカッションが毎晩行われた。ホテルの部屋と部屋の間に机やソファーが置いてあるスペースがあり、そこでクラスごとに分かれて話し合いが行われていた。 朝鮮学校の担任の先生が、「はい、じゃあ今日~~と~~に行きましたが、何か感想のある人」と言うと、挙手をして感想を述べていく。 「早よ終わってくれ……」 僕はそう思いながらソファーに腰掛けていた。すると数人が手を挙げる。指名された同級生の女子が話し始める。「今日は~~に行きましたが、金正恩元帥様がおっしゃっていた~~~~というお言葉を聞いて本当にそうだと思いました」彼女は決まって一番に発言をしていた。発言はすべてコピペ。すると、先生が「良いですね」と彼女を褒める。 「ええの?」 僕は心の中で苦笑してしまった。その言葉を聞いてどう思い、どう行動に移すのかまで話していたのであればまだいいだろうが、このやり取り、ただのコピペにすぎない。もう茶番以外の何ものでもない。
金一族を褒め讃えるだけの不毛な時間が過ぎ…
金一族の発言コピペ女子は、その後しっかり朝鮮大学校に行って朝鮮学校の先生になった。彼女に続くように、朝鮮学校の先生から好かれている生徒たちが手を挙げて発言していく。もちろん北朝鮮や金一族を褒め讃える内容ばかりだった。そんな不毛なディスカッションが1~2時間も続いた。夜のディスカッションは、長引く日は2時間を超える日もあった。 僕はとにかく「早よ終わってくれ」と思い続けていた。この時間が不毛だからという理由もあったが、最大の理由は、早く終わってくれないとシャワーを浴びられなくなってしまうからだ。20時を過ぎるとお湯が出なくなり、錆汁しか出なくなる。絶対に汗を洗い流したい。 「早よ終われ!!」 20時が近づいて焦っていると、僕の親友が口を開いた。「今日行った観光地で『金正恩元帥様が~~~~』って言ってたけど、俺はあれ違うと思う」 場が凍りついた……。僕も親友の発言に賛同するが、今は北朝鮮にいるので口が裂けても言えなかった。無事に日本に帰国できなくなる恐れがあるからだ。すると、コピペ女子が「~~(親友の名前)! そういうところがダメだと思うよ!」と口撃した。 コピペ女子は北朝鮮と朝鮮学校に従順だ。どこがどうダメなのかは指摘しない。コピペ女子だから。当然のこと、親友とコピペ女子は口論になった。親友とコピペ女子の声だけが響きわたる北朝鮮の一角。「朝まで生テレビ!」くらい長丁場になりそうだった。 「シャワーが浴びたい!」 みながうつむく中、数人の生徒がざわつきだした。視線の先に目をやると、北朝鮮のガイドの男性が片隅に腰を掛けて話を聞いていた。