世界の観光業による温室効果ガス排出量は、世界の全産業の2倍の速さで拡大
記事のポイント①観光業による全世界の温室効果ガス排出量は、全業界の2倍の速さで拡大した②観光による排出量の75%は、上位20カ国が引き起こした③観光による国別排出量で、日本は世界で6番目に多い
グローバルの観光産業による温室効果ガス(GHG)の排出量は、世界全体の排出拡大を上回るスピードで急拡大していることが、豪グリフィス大学の専門家らの研究によって明らかになった。観光による排出量全体の75%を、上位20カ国が占める。インバウンド観光が急増する日本の観光による排出量は、世界第6位だ。(オルタナ副編集長=北村佳代子)
豪グリフィス大学観光学部のジェームズ・ハイアム教授らは2024年12月、世界的科学誌「ネイチャー」に、世界の観光産業による温室効果ガス排出量に関する研究結果を発表した。175か国のインバウンド観光、アウトバンド観光、国内旅行に加え、国際航空便や自家用車などでの移動、地元観光ビジネスなどを含む包括的な視点から分析した。 観光は、昨年の国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)で初めて議題に含まれたテーマだ。 本研究によると、コロナ禍前の2009年から2019年の11年間で、観光での排出量は年率3.5%増と、同期間の世界の排出量(年率1.5%増)の2倍のスピードで急増した。世界全体の排出量に占める観光産業の割合は、2009年の7.7%(排出量37億トン)から2019年には8.8%(同52億トン)に拡大し、排出量は40%増えた。 GHG排出の直接的な要因の筆頭は航空による移動(21%)で、ガソリンやディーゼル燃料を使用した車両の利用(17%)がそれに続く。 コロナ禍により2020年~21年の観光関連の排出量は大幅に減少したが、旺盛な観光需要を背景に、観光業は今、急速に回復している。ハイアム教授らは、今の成長率が続けば、今後20年間で世界の観光による排出量はさらに倍増すると予測する。 一方で、観光による排出量では、国ごとに大きな不均衡が見られた。観光による排出量の75%はわずか20カ国で発生し、残りの25%を155カ国で分けている状態だ。米国、中国、インドのトップ3カ国だけで、観光による排出量の39%を占め、日本は世界第6位だった。 研究レポートは、観光需要の増加に対して、航空の脱炭素化などの技術面が追い付いていないことが観光の脱炭素化の大きな障害となっていると指摘した。そして、ホットスポット(観光での排出量が多い場所)の特定と排出量の削減、過剰な観光開発の抑制、長距離フライトを伴う観光から国内や近距離旅行へのシフトなどを提言した。