ランカーにTKO勝利した村田は世界へ近づいたのか
ロンドン五輪のミドル級金メダリストで、WBC世界ミドル級7位の村田諒太(29歳、帝拳)が1日、大田区民総合体育館でWBOミドル級15位のダグラス・ダミアオ・アダイデ(24=ブラジル)とミドル級10回戦を行い、5回38秒にTKO勝ちした。 3試合ぶりのKO劇でデビュー以来7連勝。「プロとしてファンを喜ばせるボクシング」をテーマに臨んだ初の世界ランカー戦で強烈な右の威力を見せつけ、巷で噂されていた“村田劣化論”を封じこめた。次戦は、早ければ夏にもアメリカ・ラスベガスで、さらにレベルが上の世界ランカーに挑み、その結果とタイミング次第では、年内にも世界初挑戦を行う青写真が組まれている。
重たい空気が漂っていた。 「このままズルズルいくのかな。嫌な展開でした」 筆者のノートは4ラウンドまでに村田がとっていたラウンドは、たったひとつ。後からジャッジペーパを見てみると、一人は、1、2回が村田、3、4回はブラジル人を支持していた(フルマークを村田につけているジャッジが一人いて驚いたが)。 左でジャブは突くが、手数で圧倒されて防戦一方。得意のガードでパンチの芯はたくみにすべて外してはいた。村田も「効いたパンチはひとつもなかった」と振り返っていたが、キンシャサでジョージ・フォアマンを疲れさせたモハメッド・アリではあるまいし、ここまでリングジェネラルシップを相手に渡してしまっては、会場から時折、悲鳴が漏れるのも仕方がなかった。 5ラウンドに入るインターバル。 セコンドから「アッパーの距離でなく、ワンツーの距離だ」とのアドバイスをもらうと村田は豹変した。目の色を変え勝負に。右のボディストレートで、ガードを下げておき、そこにステップインして力の限りに右を振り回した。アダイデは、スローモーに斜めに崩れるようにして倒れた。10カウントを聞かずに立ち上がったが、そこには凶暴な右ストレートが待っていた。崖っぷちに立たされた五輪王者の野生が覚醒した。 リング上で、両腕に力こぶを作ってポージング。 「久しぶりの感覚。あそこまでの当たりはプロでは初めてかも。ノックアウトという事実を残したことにほっとした。アマは勝てばいいがプロは違う。リングを降りるときのお客さんのリアクションが違っていた」 会見中、右の拳に氷を当てていた村田は、「なにも、これをアピールしているわけじゃないんで」と言って周囲を笑わせた。 「近い距離でボクシングをしていたので、あの右が見えなかったのかもしれませんが、それを意図して作ったわけではない。序盤はプレッシャーをかけて、疲れるのを待ったが、こっちも硬くなって手が出なかった。そのあたり(攻めと防御)をうまくミックスさせていかないと……課題が出ました」