総選挙与党惨敗を韓国メディアはどう伝えたか「安倍政治の弊害、石破首相に期待したけれど…」 澤田克己
◇気になるのはやはり米大統領選 「安倍政治」への批判が自民惨敗の原因だととらえるハンギョレ新聞は、日本社会に積み重なった「安倍政治の弊害」を指摘する。中でも歴史認識に関して、安倍氏が戦後70年談話で「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と述べて以降、「日本は韓国に『過ぎ去った歴史は忘れて安保協力を進めよう』という安倍路線の受け入れを要求し続けてきた」と批判。このままでは、来年の国交正常化60年に合わせて検討されている新たな宣言が安倍路線に基づくものになりかねないという懸念を表明した。今回の選挙に対する論評になっているかはともかく、対日関係に関する同紙の姿勢を明確に示したと言えるだろう。 11月の米大統領選とからめ、日米韓連携の重要性を論じたのが韓国日報と毎日経済新聞だった。 韓国日報は「(就任後)2年間の尹錫悦大統領の外交は、バイデン大統領と岸田文雄首相とともに、韓米日連携に全てを賭けるものだった」と指摘した。その上で「いま日本では新しい首相が選挙敗北の責任を問われ、米国では3カ国協力の基盤を揺るがすかもしれない人物が大統領に当選する可能性がある」とし、「韓国外交の中心軸である韓米同盟と韓米日協力に支障が出ないよう」備えることを韓国政府に求めた。 毎日経済新聞は「米日の政局激浪…試される韓米日連携」という社説を掲げ、3カ国連携の重要性を説いた。尹政権にとって最大の外交成果であるにもかかわらず、「パートナー2カ国のうち一つは(政権の)基盤が弱まり、もう片方は政権交代の可能性が語られている」と懸念を表明。ロシアと北朝鮮の関係強化に対応するためにも「韓米日連携が揺らぐことのないよう外交努力を尽くさなければ」と訴えた。 韓国日報と毎日経済新聞の論調は、日本の新聞各紙に多く見られる考え方に通じる。どちらにしても、最大の変数は米大統領選の行方である。
澤田克己(さわだ・かつみ)毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数。