学校のいじめとエアコン問題に通底するもの カギは「五箇条の御誓文」?
「個人の責任を問わない」航空業界の改善策
ビジョンがあることで理想を実現した事例があります。航空業界です。航空事故では、企業の枠を越え業界全体で事故の教訓が共有されます。事故件数は低下傾向にあり、2017年はジェット旅客機の墜落事故がついにゼロ件になりました。 その背景には事故が起きた際、米国を筆頭に多くの国で、パイロットや整備に関わった個人の責任は問わず、事故原因の正確な情報を把握し、フィードバックを行う仕組みがあります。個人の責任を追及するより、システムの改善を目指す姿勢がそこにあります。 航空業界が掲げる理想は「安全な運行」です。これが業界全体のビジョンになっています。現在のように失敗を隠さず共有し、システムを絶えず修正していくようになったのには、多くの事故において、立場や役職で意見が言い出しにくかったり、情報が共有されなかったことが事故を引き起こしてきた経緯があります。 こうした反省から、「クルー・リソース・マネジメント(CRM)」という仕組みが生まれました。上司の決定に疑いがあった場合に意見を言うことは“義務”であり、意見を言いやすい環境をつくることが求められる体系です。このアプローチは、学校教育にも応用できると私は思います。 エアコン設置に前向きな自治体が少なかった状態が、今回のような事故によって急速に風向きが変わるのは、教育分野が、航空業界のようなビジョンに基づいて情報を共有し、常に問題を克服していくシステムではなく、世論という感情によって対応する旧態依然としたものであることの証明です。 エアコンによる学習環境の向上と学力向上の相関を示すデータ、身体への影響を予測するデータが、全国の自治体や学校関係者に共有され、CRMの精神が機能していれば、児童が亡くなる前にエアコン設置が進んだかもしれません。あるいは、いじめに関わる事例分析が全国で共有され、同じくCRMが徹底されていれば、不条理な思いをする児童や生徒、学校関係者は減らせるはずです。