学校のいじめとエアコン問題に通底するもの カギは「五箇条の御誓文」?
ビジョンなくルールを守ることが目的化
航空業界のCRMは「安全な運行」というビジョンがあることで機能しています。しかし、教育現場に相応するビジョンがあるでしょうか? 「固定担任制」や「定期テスト」の廃止などの学校改革を打ち出して注目を集めている千代田区の公立中学校の校長は、教員や生徒に「手段と目的」を取り違えないことの重要性を繰り返し伝えています。これらは画期的な改革ですが、本来は1つの学校単位ではなく、教育現場全体で行われるべきことです。 国、都道府県、市町村という学校現場の3層構造によって、責任の所在が曖昧になりがちですが、「国=文科省」は、学校を運営する市町村に裁量を与えて考えることを促すべく、制度を整備しています。ただ残念ながら、各市町村の教育委員会などには、考えることに慣れていない人たちがいるようにも見受けられます。 ビジョンを持たず、ルールを守ることが目的化してしまった大人たちが、児童や生徒の前に立って指導する。この状況を変えること、そして保護者や教師、教育委員会や市町村長が「教育とは何か」というビジョンをあらためて考え、掲げることが、進化し続ける学校教育に向けた最初の一歩となります。 言い換えれば、航空業界での「安全な運行」のような基点を学校教育の現場を持つことが求められますが、文科省の方針は今まで二転三転していて定まっているわけではありません。だからこそ、現場で教育に関わるすべての人々の見識が重要です。
私たちの社会制度の設計を分解していくと、約150年前の明治維新における「五箇条の御誓文(ごせいもん)」にある「広く会議を興し、万機公論に決すべし」という、誰もが社会に関わるという近現代社会の基本理念が明文化されていたことに行き着きます。 150年程経った現在も、この「広く会議を興し、万機公論に決すべし」が掲げた理念は実現していません。教育がどうあるべきか、エアコン設置をはじめ学習の場がどうあるべきかについて、幅広い国民的議論も各地域の話し合いもなかったのではないでしょうか。 世論でエアコン問題が動いたという見方もありますが、世論は”popular sentiment”と英訳されるように情緒的なものです。事実やデータを踏まえない「情緒」で政策が影響されることが大きな災禍を招くことは、第二次世界大戦への参戦や多くの無謀な作戦、戦後においても、高度経済成長期の水俣病など、多くの歴史が示しています。 いじめとエアコンの問題に通底するのは、航空業界のように大きな軸や目標を設けずに、問題に向き合うことを避けて先送りしてしまうことが、教育分野だけに限らず社会全般で当たり前になっているということです。 私たちは「明治」「大正」「昭和」「平成」の時代を通じて近代社会の基本理念「広く会議を興し、万機公論に決すべし」を社会に実装できないままに、「令和」を迎えています。 新しい時代の日本が、これまでの日本より発展するには、この近代理念を現在の技術で実現することが必要不可欠です。まず教育分野でこれを実現することではじめて、いじめやエアコン、児童虐待といった問題に社会を挙げて取り組めるようになると考えます 《参考》 (※1)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(文部科学省)
----------------------------- ■岩田崇(いわた・たかし) 1973年1月生まれ。「オープンな合意形成によってこれらの社会に求められるイノベーションが実現する」との考えのもとに特許、メディア開発などを行う研究者、起業家。栃木県塩谷町では『塩谷町民全員会議』を開発、運営し、2016年マニフェスト大賞コミュニケーション最優秀賞を受賞