川崎がようやく掴んだ7試合ぶり勝利の裏側。指針を決してブラさなかった“オニさん”の背中
まだ苦しい状況は続くが
[J1第24節]柏 2-3 川崎/7月20日/三協フロンテア柏スタジアム 長い長いトンネルをようやく抜けた。 【動画】脇坂の決勝弾! 先制しても終盤に追いつかれるデジャブのような内容で、リーグ戦で5試合連続のドローを演じていた川崎が、アウェーの柏戦で7試合ぶりの勝利を掴んだのだ。 もっとも柏戦も一筋縄ではいかなかった。開始10分の怒涛の攻撃で、CF山田新が一気に2ゴールを奪い、なかなか追加点を奪ずにいた難癖を乗り越えるも、直後にセットプレーから失点するもったない展開で後半へ折り返し、67分にはこの試合でも同点に追いつかれた。 79分にはキャプテン・脇坂泰斗が意地のゴールで再びリードを得るも、後半アディショナルタイムにはエリア内での橘田健人のプレーがハンドと判定されてPKを献上。もっともこれを経験豊富なGKチョン・ソンリョンが起死回生のセーブで阻み、ジェットコースターのような試合をなんとか勝ち切ったのである。 4-2-3-1にシステムを変え、ドローが続いた5試合は内容は悪くなかった。それでも勝てないジレンマを抱え続けた。 3チームがJ2に落ちる今季、降格圏と勝点3差まで順位を下げる厳しい立場にも追い込まれていた。本来であれば現実的な戦い方に舵を切るのもひとつの選択肢だったのかもしれない。 それでも川崎は川崎らしく、上を目指すことにこだわり続けた。 ボールを保持し、ゲームと相手をコントロールする。他のチームにはできないような崩しを見せる。そして守備でも観ている者の心を震わす。かなりハードルの高いサッカーだ。しかも、今季の開幕前にも登里享平、山根視来ら主力の移籍が続き、スタッフも大きく入れ替わった。まさに世代交代の真っ只中である。難しい状況であることは想像に難くない。 それでも信念を曲げてどうするんだ。そんな叫びが聞こえてくるようにチームは挑み続け、その姿が柏戦の勝利につながったように映る。 その背景には、決してブレない男、“オニさん”こと鬼木達監督の背中があった。結果を残し続けなくてはいけない監督の立場としては忸怩たる想いがあったはずだ。リーグ戦の最中、連覇を目指す天皇杯で敗れた際には憔悴した表情を残していたのも印象に残っている。それでもチャレンジをやめない、選手を信じてともに前に進む。指針を示し続けた。 柏戦の前にはこう語っていた。 「引き分けが続いていますが、簡単に負けないチームにしていこうと声掛けをしていて、勝負に関するこだわりは少しずつ出てきていると思います。 守備で主導権を取って狙っていくのもひとつ手としてありますが、自分たちの順番としてはしっかりボールを握ってボールをコントロールし、相手を見ながらサッカーをしていきたいですし、意思が表われている時は怖がらずに、それこそ相手の脅威になるようなところに何度も入っていけていると思いますので、その繰り返しかなと、やり続けることですね。 自分たちの今置かれている状況と戦うのではなくて、目の前で起きていること、相手との戦いに集中してやっていくことが大事かなと、メンタル的なところも大きいと思います。 勝ち続けられることに越したことはないと思いますし、そういう想いで常にいますが、こういう状況をしっかり受け止めて、受け入れて、そうやって戦っていくことも自分たちにとって、チームが今本当に変わろうとしているなかで、いろんな形で人も変わって、選手もスタッフもどんどん変わっていっているなかで、我慢するところもでもあり、やっぱりチャレンジしていくところでもあると思います。 そういう意味でいうと若い選手にも言いましたが、ベテランの選手たちは、今の状況をなんとかしたいとずっと戦っていると思いますが、そういうものだけではなく、若い選手たち、中堅の選手たちがこのチームを担っていく、自分たちがこのチームを変えていかなくてはいけない、そういう想いで戦ってほしいとの話をしています。そこは少しずつ意識は出てきているのかなと。 結果が伴う部分は時間が少しかかってしまうところもあるかもしれませんが、彼らの発言が少し変わってきたり、意欲が少し見えてきたり、変化が見受けられるところはあります。あとはメンタル的な話をしています。選手たちには言葉ひとつをとってもそうですし、表情ひとつをとってもそうですし、弱気な姿勢を見せるなと。やっぱりそういうところに相手もつけこんできますし、自分が相手の立場ならどんどん小さな穴を大きなものにしていこうと、いつも試合のなかで考えるので、そういうものを見せずにやっていこうという話はしています。 繰り返しになりますが、自分たちの置かれている状況だけを考えると自分たちで勝手に苦しんでしまうかもしれない。でも相手もあるスポーツなので、そこのところの自分たちから勝手に崩れていくような雰囲気を見せなければ、どんな状況でも『このチームはこんな状況でも落ち着いているな』と、思われれば、それだけでずいぶん違うはずですし、逆に向こうが気付いていないのに、こっちがビビッてしまうようなところを見せてしまったら、そこは圧をかけられてしまう。ちょっとしたところですが、そういうところをみんなで共有していけば、チーム全体として上がっていけると。簡単なことではないですが、良い時期だと思って頑張り時、踏ん張り時だと思ってやっていきたいなと、伝えていきたいなと思っています。 起きていること、勝っている時も、勝てていない時も、すべて何かしら意味があると思っているので、そこで力をつけていく。そこが非常に重要になってくると思います。力に変えなくてはいけない。それは自分自身も状況から逃げずに受け止めて分析して、選手の分析もそうだし自分自身の分析もしっかりして、やっていきたいです」 中断前の重要な柏戦で勝てたことは大きいが、これですべて変わることはない。順位的にもまだ予断を許さない。それでも鬼木監督の下で今のチームがどう階段を登っていくのか。個人的にはその姿をぜひとも見たい。 そしてこうも強調したい。戦術は日々、進化し、サッカーは刻々と変化している。その潮流に取り残されないことは肝要だ。ただし、サッカーは想いの強さが如実に表われるスポーツでもある。その意味で、惚れるような背中を示し続け、サッカーに真摯に取り組む鬼木達という指揮官は、稀有な監督であると。それを柏戦で再認識した。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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