床に落ちた「たった1本のネジ」も見逃してはならない…トヨタの生産現場で上司が教えている「仕事の本質」
■「わからない」は上司がわるい 学園の授業や実習で生徒が「わかりません」「ちょっとわかりづらいです」と答えたとする。一般の学校ならば教師は「どうして、わからないんだ。あれほど説明したじゃないか」と言う。それから、もう一度、教えようとなる。ただし、教え方は前と同じだから、生徒は何べん、聴いてもわからない。 トヨタ、学園では「わからないと答えた部下(生徒)が悪いわけではない」というのが共通の理解だ。部下に物事を理解させることができなかった上司が悪いとされる。 部下が「わかりません」と答えたとする。トヨタの上司であれば、「どこがどのようにわからなかったのか?」を部下に訊ねる。そうして、わからなかった箇所を特定して、あらためて説明する。 ■たとえ話もアップデートしなければならない もしくは説明の仕方が悪いと言われたとする。その場合は、違う説明の仕方をする。あるいは、説明を受ける部下が理解できる用語だけで説明する。たとえ話が「古い」と言われたら、昭和の出来事や人物を引き合いに出すのではなく、令和の出来事、人物をたとえ話に使う。 人は自分が知っていることしか教えられない。昭和に生まれた上司は令和の人物についてよく知らないから、たとえ話に持ち出すことができない。しかし、そういう場合は上司は勉強しなくてはならない。ユーミンや中島みゆきの曲を引き合いに出すのではなく、YOASOBIやKing Gnuを知っていなくてはいけない。……だからといって懇親会でみんなの前で披露することまではしなくていいけれど。 学園の指導員のなかには実際にKing Gnuの曲を聴いて生徒に授業をする人間もいる。わざとらしい行動かもしれない。ハズすことだってあるだろう。けれど、生徒たちは指導員の情熱だけは感じる。 人に教えるとは聴く人の立場になることだ。 「わからない」と答えた部下や生徒を叱責するよりも、教え方、伝え方を変えることだ。 ---------- 野地 秩嘉(のじ・つねよし) ノンフィクション作家 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。 ----------
ノンフィクション作家 野地 秩嘉