子どもがいる人、いない人、意図しない分断が生まれないために、組織のリーダーやマネジメント層ができることとは?
職場における、子どもがいない人への仕事のしわ寄せの実情を、一般社団法人WINK(※)の代表理事・朝生容子さんにお聞きした前回。今回は、組織人として、子どものいる、いない、に関するモヤモヤにどんな心持ちで向き合っていくのか、相互理解を深めるヒントなどを、またまた朝生さんに伺いました。 聞き手は私、子どもを持たない境遇で働いているF30プロジェクトの小林奈巳と申します。また、私自身、小さな組織を経営しているので、マネジメント側の視点でも、自分ができることをもっと考えたいと思って取材に臨みました。 ※WINKはWellbeing Institute for No Kidsの略で、子どもがいない人が生きやすい社会に変えるべく活動をしている団体です。
組織内で分断が起こるのは、マネジメント層がほったらかしにしているから!?
小林 朝生さんたちの調査を見直していて、「不快な経験は誰によるものなのか」という質問に「男性上司」と「女性同僚」という回答がすごく多くて、そういう構造があるんだなって思いました。
Q.不利益な扱いは誰によるものですか?
小林 女性同僚とのやりとりは、それぞれが自分のことを肯定したいところがあるのかもしれないし、"そういうふうに聞こえちゃった!?"みたいな、お互いに過敏になりすぎたゆえのすれ違いなんかもあるかもしれない。だから女性同僚との関係だったら、言い合って何とかできるかもしれないなって思ったんです。そんなに簡単にはいかないのですかね? 朝生 それはあるかも。特に、小さい会社だと距離が近い分お互いのことがよく分かるので、子どもがいるかいないかという属性ではなく、個人に対する理解が得られやすいのかなと思います。私が会社員だったときの話なんですけど、元々は、独身で子どもがいない女性がいて、そこに正社員の女性が育休から復帰するタイミングで私のところに異動になったんですね。それを元々いた彼女が心配したんですよ。 マーケティングをやっている部署で、夜にイベントをやることもあるわけです。でも復帰した女性は時短勤務。「あの人は残業ができなくて、時短で帰っちゃうんですよね。それは困りますよね」と。とはいえ2人しかいなかった部署に1人増えるわけだから、私はウェルカムだったんですけど、"なるほど、そうか、そういうふうに感じるんだな"と思いました。 でも一緒に働いていくうちに、時短であっても、その人が貢献できていることがわかるんですよね。1年くらい経つと、最初はすごく反発していた彼女は一切不満を言わなくなったし、復帰した彼女のことを「いろいろありがたいと思っています」と言ってくれるようになりました。 小林 それはよかった! 朝生 先ほど小林さんのおっしゃった通りで、お互いに理解ができるような職場を作っていくことがとても大事だと思います。とはいえ、現実は人が足りない中での難しさもある。私の経験でいえば、時短や育休をとれる正社員と、とりにくい契約社員という雇用条件の差の影響も考えないといけないし。 小林 元々いた彼女と育休明けの彼女、1年でどんな変化があったんですか? 朝生 復帰してきた彼女もすごく頑張ったんです。その会社は裁量制で時間管理の面で個人の自由が利きやすいこともあり、帰宅してお子さんを寝かしつけてからリモートの環境でメールなどのチェックをしたり、いろいろな情報をキャッチアップしようという努力もしてくれました。 あと、とても助かったのは、私はトラブルの時にあわてちゃうところがあるんですけど、復帰した彼女は、そんな時にも冷静で落ち着いていて、タイプが全然違うんですよね。チームとしてそれぞれの特徴が上手く活かせました。元々いた彼女は、復帰した正社員のことを"ちゃんと頼りになる人なんだ、相談できる人なんだ"と受け入れてくれたのだと思います。 小林 それぞれの特徴を生かしながら一生懸命に取り組んでいける場所があるからこそ、ダイバーシティが成立するのかなって実感しました。 朝生 そうだと思います。 小林 場を作って当事者同士で話ができるようにしたり、みんなで向かう先を"ここだよね"ってコミットすることがすごく大事になってきますね。仕事をする上で、お互いが仕事のフォローをすることは当然出てくると思うし、そんな時にみんなが同じ方向に向かっていれば、自然とコミュニケーションを取るだろうし。まあ、言うのは簡単で、やるのは難しいかもしれないですけど。 朝生 お互いにカバーできる人なんだなということがわかると、子どもがいるかいないかとか、時短かフルタイムなのか、というのは乗り越えられるんじゃないかなって私は思っています。 小林 表層のコミュニケーションからもう一歩関係性を深められると、立場やライフステージの違いからくる苦しさも乗り越えられそうですが、それを阻んでいるものって何ですかね? 決め付けとか、"どうせ○○だろう"とか思ってしまうのを拭い去るにはどうしたらいいだろう? ごめんなさい、ただただ疑問を投げかけてみました(笑)。 朝生 そうですよね(笑)。「すごく嫌な思いをした」という方の職場に共通して出てくるのは、マネジメントの人がほったらかしにしている、ということなんです。 小林 そこか~! 朝生 よく聞くのは「お互いに話し合ってやってくれよ。自分は関係ないから」みたいな対応ですね。それはひとつ問題になるポイントじゃないかなと。メンバーからしても、"この管理者なら言えるけど、この人には言いたくない"っていうのもありますよね。