ネット銀行は“アイデンティティ”崩壊の危機… 日銀利上げで「住宅ローン」顧客争奪戦が激化
銀行が新規ユーザー獲得に必死な理由
とはいえ、仮にこの先、政策金利の引き上げが続いたとしても、各銀行の変動金利の上げ幅は、基本的には政策金利の上げ幅と連動するはず。なぜ今、問い合わせが急増しているのだろうか。 「各銀行が政策金利に連動する“基準金利”を持っており、さらにそこから独自の“引き下げ幅”を設定していることが関係しています。例えば、政策金利を基準金利と合わせて0.15%引き上げたとしても、同時に引き下げ幅も0.15%引き下げたとすると、既存ユーザーの利率は0.15%上がりますが、新規ユーザーの適用金利は据え置かれることになります」(塩澤氏) 各銀行にとって、既存ユーザーからの金利収入と並ぶ重要な収益源が、融資額に応じて徴収する融資手数料。2.2%程度に設定している銀行が大半だ。 「ローンに付帯する団体信用生命保険の保険料は、銀行が保険会社に支払うのですが、その料金は顧客の平均年齢で算出されます。新規ユーザーを獲得することは、この平均年齢を一定水準に保つ役割もある」(塩澤氏) こうした新規ユーザーの“争奪戦”を背景に、各銀行は 1.基準金利を何%上げるか 2.引き下げ幅を据え置くか、拡大するか(適用金利を据え置くか) の判断を迫られることになっているのだ。
既に来月のライバル銀行の動きを巡り、探り合いが始まっている
こうした適用金利を巡る探り合いで他行と一線を画し、見事に“出し抜いた”恰好となったのが三菱UFJ銀行だったというわけだ。 「三菱UFJ銀行の相談窓口に利用者が殺到しているようだ、という話が業界内で広まっています。特にネット銀行は気が気でないはずで、“来月にもauじぶん銀行が適用金利を下げてくるのでは”という噂も出回っています」(銀行関係者) メガバンクだけでなく、10月の適用金利を据え置いた銀行でも、問い合わせが急増していた。モゲチェックと共同で、期間限定の金利キャンペーンを実施中のSBI新生銀行もその1つ。 「先月と比較し、新規に住宅ローンを申し込まれたお客様の数が1.5倍ほど増えています。やはり、ユーザーの8~9割ほどは“金利”を第一条件に銀行を選ばれているという印象。そうしたお客様のニーズにいかに応えていけるかが、私たちに求められていることだと考えています」(SBI新生銀行の担当者) なるべく安い金利で融資を受けたいユーザーと、本音では金利を引き上げたいものの、継続的に新規ユーザーを獲得するためには、適用金利で勝負せざるを得ない銀行――。 今後も0.01%単位の熾烈な金利競争の行方に目が離せない。 *** この記事の後編では引き続き、「みずほ銀行」の適用金利据え置きの“落とし穴”や、「住信SBIネット銀行」の基準金利引き上げ幅がユーザー間で異なる“怪現象”について。「借り換え」でメリットが生まれる金利のラインなど、「知らないと損する」住宅ローンの最新事情をお届けする。 デイリー新潮編集部
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