ネット銀行は“アイデンティティ”崩壊の危機… 日銀利上げで「住宅ローン」顧客争奪戦が激化
7月31日の金融政策決定会合で、日銀はこれまで0~0.1%としていた政策金利を0.25%に引き上げる決定を下した。これを受け、多くの銀行が10月1日に基準金利を見直したことで、いよいよ既存客、新規客ともに住宅ローンの利上げが現実のものとなった。 【写真を見る】まさかのメガバンクが1位に 10月最新の「変動金利ランキング」 (前後編の前編) ***
三菱UFJ銀行の“衝撃”
住宅ローンを組む人のうち、7割以上が選択しているという「変動金利」は、政策金利に連動するため、その動向は今や国民の大きな関心事となっている。 7月の政策金利の引き上げ自体は、これまで多くの報道もあり、“覚悟”していたユーザーも多かった。一方で、意外に感じた人が多かったのが、銀行間の金利差に思ったよりも開きが生じたことだ。 10月に入り、銀行各社が基準金利の引き上げ幅を正式に発表すると、 既に融資を受けているユーザーからは、 「しまった、あっちの銀行にしておくべきだった」 住宅ローンの借入先を検討中のユーザーからは、 「これまで選択肢になかった銀行が金利を据え置くことを知り、急いで審査をやり直した」 といった声が聞こえる事態となっている。 “台風の目”となっているのは、メガバンクの三菱UFJ銀行だ。三井住友銀行やりそな銀行といったライバルが最優遇金利を0.15%引き上げたのに対し、三菱UFJ銀行は0.345%に据え置くことを発表。これまで低金利をけん引してきたネット銀行をも凌駕する金利水準に、業界内でも衝撃が走っている。
お株を奪われたネット銀行
住宅ローン商品を手掛けている、ある銀行の関係者はこう話す。 「三菱UFJの動きは正直に言って、驚きました。これまでauじぶん銀行や住信SBIネット銀行の最優遇金利が、いわば銀行各社にとって“ベンチマーク”となっていました。つまり、この2行の金利にいかに対抗していくかがポイントだった。ところが10月に入り、金利だけで比較するとメガバンクの三菱UFJが一番の低金利という状況になっている。事態が一変してしまったのです」(銀行関係者) 住宅ローン比較診断サービスの「モゲチェック」を手掛ける、住宅ローンアナリストの塩澤崇氏も、こう指摘する。 「低金利がウリであるネット銀行にとって、業界最安金利のお株をメガバンクに奪われるという事態は、まさにアイデンティティの危機。今月に入ってからは、新規顧客の取り込みに苦戦している様子が伝わってきます」(塩澤氏) 参考までに各行の適用金利(変動)を低い順に並べてみると、1位が三菱UFJ銀行の0.345%、2位がみずほ銀行の0.375%、3位がSBI新生銀行の0.420%、4位がpaypay銀行の0.465%、5位がauじぶん銀行の0.479%、6位が住信SBIネット銀行の0.480%、7位がりそな銀行の0.490%となっている(※10月11日時点、実際の適用金利は審査結果によって決まる) 金利差が如実に表れたことで、塩澤氏の手掛ける「モゲチェック」への問い合わせ数も急増しているという。 「先月と比較して、ユーザーからは約3倍の問い合わせがあり、窓口がパンク寸前になっています。金利の先高観もある中、なるべく低金利で融資を受けたいというニーズがさらに強まっているのを感じます」(塩澤氏)