【スズキ GSX-8S 試乗】トラクションという言葉の意味を教えてくれる…伊丹孝裕
エンジンには2つのバランサーが組み込まれ、それによって一次振動と二次振動が抑えられていることがメリットとして謳われる。しばしば、「スムーズな回転上昇」だったり、「滑らかな吹け上がり」といった言葉で表現されるわけだが、その語感がもたらすイメージほど味気ないものではなく、エンジンの表情はかなり豊かだ。
アイドリングから低回転域では明確なビートを乗り手の体に伝え、中回転域で軽いバイブレーション(この領域に関してはポジティブな意味ではない)に変化。それを超え、高回転域になると、持てる力を無駄なく絞り出すような濃厚さで車速を押し上げていく。
スロットルを開ける。リアタイヤが路面を蹴り出す。そのプロセスがわかりやすく、80ps/8500rpmのパワーを完全にコントロール下に置けている手の内感が心地いい。エンジンモードを最もアグレッシブなA(アクティブ)に切り替えると、最初のレスポンスこそガツンとくるものの、極端に鋭くなりすぎないように躾られている。
5000rpm以下にしばり、シフトアップとダウンを矢継ぎ早に繰り返しながら忙しく走るもよし。7000rpm以上をキープし、スロットルのオンオフに集中するもよし。選ぶ回転域によって、走らせ方のツボが移り変わるところが楽しい。
◆まるで手本のようなハンドリングとトラクション
一方で、回転数を上げても下げても、バンク角が深くても浅くても、ハンドリングのキャラクターは大きく変化しない。手応えは重くも軽くもなく、コーナーでは一定のリズムと接地感をともないながら旋回。トラクションという言葉の意味を教えてくれる、手本のような振る舞いがそこにある。
ギャップの多い路面を走らせた時、バネ下の重さというか、タイヤがドタバタするような雑味を感じる場面がある。サスペンションの仕様とライディングポジションが異なる兄弟モデル『GSX-8R』では気にならなかった動きなので、ささやかながらも指摘すべきポイントとして挙げておく。
もっとも、スポーツバイクとしての及第点は大きく超えている。日常もスポーツも高いレベルでこなすことができ、デザインもエンジンもフレッシュそのもの。それでいて、リーズナブルといえる価格(消費税込106万7000円)も実現しているのだから、トータルバランスに優れた満足度の高いモデルである。