仲野太賀、“演劇の父”の作品で念願の主演 『虎に翼』優三さん役は代えがたい経験に
◆岩松演出は「毎回新しい扉を開けてくれる」
以前のインタビューで仲野は、岩松作品以外の舞台に出演しても「心の中で『これは岩松さんはどんな風に思うんだろう』とか、どこかで岩松さんの視点を感じながら」やっていたと語っていた。 「勝手に演劇の父と呼んでいるんです。岩松さんは息子だという認識はないと思いますけど(笑)。自分の原体験が岩松さんの戯曲で、その時の衝撃がすごかったんですよね。今まで自分が読んできたものと、まったく違う。いわゆる分かりやすい、王道のお話ではないですし。戯曲の奥深さというか、演劇の世界の楽しさを教えてくれた人。そういうイメージですかね」。 岩松作品は「見るたびに新しい仕掛けがある。これだけ作品をたくさん作られている中でも、常に何かを更新していく姿というのは表現者としてすごく尊敬しています」と語る仲野だが、前作『いのち知らず』以来、3年ぶりに岩松の稽古場に来て驚いたことがあったそうだ。 「ものすごい速度で芝居が立ち上がっていくんです。それも、1つのシーンを一通りやる上で、細かいところで、止めて、直して、またその先をやって、止めて直してっていうのがものすごく緻密で的確なんですよね。恐ろしい速さで芝居が積み上がっていく様を見て、『こんなに早かったっけ? なんか超人的な演出力だな』と。ついていくのに必死です」。 岩松の演出の魅力はどんなところに感じているのだろう? 「岩松さんの演出を受けると、『こんなところに扉があったんだ!』『その手があったか!』みたいに新しい扉を毎回開けてくれる感じがしますね。あと、演出する言葉がすごく詩的というか美しいんですけど、その言葉に岩松さん自身はそんなに期待していない感じがするというか。形容できないものが見たい時にその道筋を作ってくれる感じで、自由度があるんです。俳優としてはいろいろ試せるのでやりやすいですね。岩松さん自身が自分も分からないからみんなで動きながら作っていきたいというやり方をされていて、みんなで作っていく感じがすごく楽しいですし、挑戦的で稽古場がスリリングです」。 演出の岩松は、「峠」という旅館を営む主人役で出演もする。演出家・岩松了と、共演者・岩松了の印象の違いはあるのだろうか? 「目が違いますね。演出されている時は眼差しの鋭さがあります。岩松さんのダメ出しは、多い人とそうじゃない人がいて、僕はどちらかというと少ない方な気がするんです。でもそれはダメじゃないということじゃなくて、泳がされているというか(笑)。こいつが良くなっていくのを待っているという感じですかね。何も言われないけれど、いいとも言われないみたいな。僕としては言っても言わなくても、緊張感があってとっても怖い(笑)」。 今回、仲野が演じる安藤との間に、恋のようなある感情が芽生える斗紀役を二階堂ふみが演じる。二階堂とは彼女の初舞台『八犬伝』(2013年)で共演した仲だ。 「お芝居でご一緒するのは10年ぶりくらいなんです。一緒に仕事をしていない間も、ふみちゃんの大活躍はもちろん見てきているので、舞台上でセリフを交わし合う時間がすごく楽しみですね。もともとすごく仲の良い友人なので、こういうちょっと恋愛要素というか、惹かれ合うような役をやるのはこっぱずかしいのかな?と思ったんですけど、芝居が始まってみればそんなことは全然なくて。信頼しあっているからこそ溶け込めるものがあるなと思っています」。