広がる木造建築、オフィスビルやホテルにも 三菱地所のグループ会社が「非住宅」に注力
4階建て賃貸住宅や5階建て複合施設で実績
――手がけた事例を教えてください。 千葉市中央区で2024年2月に竣工した賃貸住宅の「椿森共同住宅」は、木造4階建て、延べ床面積約590坪の建物です。当初は、施主と設計会社がRC造で打ち合わせしていたそうですが、工事費の高さやRC造では引き渡し工期が間に合わないという事情から、木造に転換したということです。
木造化するにあたり、壁の配置量が多いワンルームを下層階に、間取りの広いファミリータイプを上層階に配置することで、下層階の構造的な負荷を低減し、コストを抑えています。 共同住宅4階建ては耐火建築物にする必要があり、建築基準法の告示仕様(耐火被覆)を採用することで木造の1時間耐火構造に対応しました。また木造化することで構造躯体の重量がRC造と比べて軽くなるため、地盤改良や杭・基礎費用の低減にもなり、耐火性能を維持した上でトータルコスト削減につながっています。
神奈川県藤沢市で手がけた「This is Me」は、木造5階建ての複合施設です。湘南と言えば海のイメージがありますが、この建物は「海を守るには山の治水能力を守る必要がある」と考えたお施主様が、神奈川県の地元の木を使うことにこだわって実現しました。実際に構造材の一部に神奈川県産スギ材を採用しています。 建物用途は各フロアに店舗が入る商業施設で、約8m四方の店舗スペースの確保が課題でしたが、LVL(単板積層材)など木材を加工して強度を高めた「エンジニアリングウッド」の梁や、カナダ認証の高倍率壁(ミッドプライウォール)の採用により必要とする店舗大空間を実現し、木造における中層商業施設の可能性を広げました。
また木質化としては、2~5階の外装材に木調サイディングを、1階に天然木を採用し、利用客の目や手に触れる部分に本物感を味わってもらう演出をしました。そのほか、メンテナンスの容易さや維持管理コストの低減も考慮した設計が特徴といえます。 最近ではRC造と木造を組み合わせた「混構造」も広がっています。2×4工法は、壁で構造を支えるため、共同住宅や介護老人保健施設、ホテルなど壁が多い用途に向いています。一方で、商業施設などでは1階は広い空間が必要とされることもあり、その場合は1階はRC造、2階以上は木造にしたほうが、コストパフォーマンスがいいこともあります。 ――木造建築を広げていくことにはどんなメリットがあるのでしょうか。 SDGsやESGに取り組む企業が増えるなか、施主や工務店などの元請けの皆様は、環境負荷を抑えたいという意識が強くなっているようです。木材は成長の過程でCO2を吸収しますし、RCや鉄骨と比べて加工しやすいため建築時のCO2排出量も少なくて済みます。日本では戦後に植えられて伐採されていない木が多くありますが、樹齢の高い木はCO2吸収量が減っていくため、木材の需要を増やすことは森林を若返らせることにもつながります。 また元請けとしては、RCでも鉄骨でもない木造という選択肢を提案できるのは、ブランディングの効果もあるでしょう。 そして、コストパフォーマンスも見逃せません。建物のプランの段階から提案し、2×4工法の規格サイズ材(流通材)を採用することにより構造躯体の資材コストを抑えることが可能となります。また、木造化することで構造躯体の重量がRC造と比べ軽くなるため、地盤改良、杭・基礎費用の低減にもなり、トータルコスト削減につながっています。 木は鉄より安いのに加え、工期短縮によるコスト削減も期待できます。先ほどの椿森共同住宅の例では、RC造にすると12カ月の工期が見込まれたのに対し、木造では10カ月と、2カ月短くなりました。人件費が上昇するなか、コストパフォーマンスはますます重要になります。材の価格は変動しますし、工法や用途にはよりますが、一般的には4~5階建て以下の木造建築では、RC造と比べて1割から2割ほど低いコストで抑えられると考えています。