タイトルホルダー高木隆弘が語る「昭和の特訓、戦友の引退、一流選手の定義」いまは競輪人生の“新章”で夢抱く「神奈川からスターを輩出したい」
生身の人間が走っているのが競輪
ーーなるほど。高木さんが選手生活を続けている中で、同期や同年代の方も引退されていますよね。さみしい気持ちはあったりしますか? 高木 いや、つらいですよ。もちろんさみしい。有坂や三宅もやめちゃったし、同年代で切磋琢磨してきた選手が辞めていくと心にポッカリ穴が開いちゃいます。最近では出口眞浩が引退してしまった。一緒にGIを戦い、一緒に合宿を張って、共に戦って。出口と飯を食べに行ったんですけど、別れて帰り道でこみ上げてくるものがありました。涙なしには語れんですね。 ーーそれでも高木さんは走っていますよね。デビューして頭角を現しGI戦線を戦い抜き、今はA級戦を怪我とも戦いながら走っています。 高木 競輪って面白いなあと思うんですよね。GIとかS級とかA級とか色々分かれているけど、どのステージも走ってて面白いです。どのステージにも何かドラマがあるし。競輪選手っていう人生を全部味わうためには「代謝争い」とかまでやるべきなのかなって気にもなってきますよ(笑)。あれはとても過酷なんだけど。 ーー高木さんはどのステージも体感なさっていますもんね。色々なステージで走り、育成に熱を注ぎ、高木さんから見ての「競輪の魅力」ってどんなところでしょうか? 高木 生身の人間が一生懸命にレースを走っているところです。生身の人間が人間離れしたスピードで走って戦うのは面白いと思いますし、S級、A級、チャレンジのどのステージでも素晴らしいレースがあります。レースには選手の性格や色々な背景もあるから、ファンの方にも深堀りしてもらえると思います。そういうのをひっくるめてファンの記憶に残るシーンがあると思います。ファンのみなさんも生身の人間だから。答えになってるかわからないけど、そんな感じのことを思いますね。 ーー「一流」というのも聞いてみたいです。高木さんが思う「一流」ってどういう選手でしょうか? 高木「誰しもができない芸当をいとも簡単にやってのけてしまう選手」かな。先行選手には先行選手の芸当、追い込み選手には追い込み選手の芸当があると思いますけど。僕の時代でくくると吉岡君なんかは長い距離をもがける選手で、「吉岡を意識してちょっと早く出ようものならオレが9着になっちゃうよな」って他の先行選手に植え付けてしまう走りに“圧”を持っていた。滝澤さんはどこから早駆けしようが逃げ切っちゃう。追い込みでいえば井上茂徳さんなんて、どんなスピードがない先行選手についてても、捲りを食い止めて絶対に残しちゃう。これらとんでもない芸当を“平然”と“簡単”にやっているから一流だと思います。 ーー平然と簡単に、ですか。 高木 そう。外から見てると「ああやればいいのか、わかったぞ」となっちゃうんですよ。あまりにも簡単にやってのけるから。実際やってみて、はじめてその走りのレベルの高さがわかるんです。一流はすごい芸当をできる人ってだけじゃなくて、“平然と簡単にやる人達”だと思います。