AEDを市民が使用できるようになってから20年――Bリーグが「命を守る取り組み」を進化させる【バスケ】
様々な音が飛び交う中で生きる先端AEDを導入
国士舘大学の防災・救急救助総合研究所副所長で同大教授を務める田中秀治氏と共に活動する救急救命士で講師の曽根悦子氏は「心肺停止が発生した時、SFRが対応することで蘇生率は93%と高まります」と説明する。2003~2019年3月までに同大がサポートしてきた388のマラソン大会では、40人の方が心肺停止に陥ったものの、素早く処置を施したことで38人が再びランナーとして復帰したというデータもある。これだけ高い数字を残せているのは、SFRという存在がいたからこそ。心肺蘇生開始まで1.6分、AED使用まで3.6分と素早い対応が可能になると説明している。 「概ね3分以内にAEDを使用することで、70%強の生存率になります。さらに全身そして脳に血液を送って臓器の機能を保つために、胸骨圧迫(かつての心臓マッサージ)を同時に行うことが不可欠です。スポーツ現場での心肺停止の場合、直前まで元気だったということもあり、早く適切な処置をすることで生存の可能性を高めることができます。多くの人の知識、意識の向上を図ることはもちろんですが、ノウハウを持った救命士や訓練を積んだSFRが近くにいることが大切になります」と曽根氏は語る。 冒頭で紹介したとおり、今年は市民がAEDを使用できるようになって20周年である。データ上、国内には約67万台ものAEDが設置されているのだが、使用に関しては一般化しているとは言い難い。心肺停止時のAED使用率はわずか4.3%(総務省消防庁発表)に留まっており、AEDを使用したが電気ショックのボタンが押されなかった事例もある。SFRの育成と運営組織内への配置の必要性を説くとともに、使用すべきケースにおいて適切に機能するAED設置の必要性を訴える国士舘大学により、Bリーグの安全対策はより実践的なものになる。 「ボタンが押されなかった要因を大別すると、周囲の騒音のためAEDからの音声が聞き取れなかったというケース、生死に関わるボタンを押すことに恐怖を抱いたというケースがあります」。そう説明するのは医療機器メーカー・日本ストライカー株式会社でAED事業の責任者を務める髙橋誠佳氏だ。同社は今回、Bリーグによる安全体制構築に賛同し、各クラブにAEDを提供する。そのAEDは使われなかった原因に対策を取ったものになっている。「弊社のオートショックAEDは、救助者の心理的負荷に配慮したものです。心停止状態にある傷病者の心電図解析を行い、電気ショックが必要と判断したら、救助者がボタンを押すことなく適切なタイミングで電気ショックを与えます。これは弊社が2021年に日本で初めて薬事承認を受けた機能です。また、AEDが発する指示音声が聞き取れずに処置が遅れることを防ぐために、騒音下でも聞き取りやすいクリアボイステクノロジー(周囲の音を分析して聞き取りやすい周波数で音声を出す)など多岐にわたる機能を備えています」と髙橋氏。Bリーグでの試合は、何千人という来場者がいてBGMが流れるという環境が想定される。そういった中で使用するには最適なAEDだと言えるだろう。