AEDを市民が使用できるようになってから20年――Bリーグが「命を守る取り組み」を進化させる【バスケ】
命を守るEAPの質を上げるファーストレスポンダーの存在
本日9月9日は「救急の日」。救急業務及び救急医療に対する正しい理解と認識を深め、救急医療関係者の意識向上を図ることを目的に1982年に定められ、同日を含む一週間は救急医療週間に指定されている。できるかぎり救急という事態に遭わず、健康であり続けたいもの。だが、命の危機は誰にでも突然訪れる。総務省消防庁による令和5年度の報告書では、国内で約14万人が突然の心肺停止に陥ったとされている。1日当たり約384人、約3.8分に1人という恐ろしい数字だ。その際、望ましいのは1分1秒でも早く「AED(自動体外式除細動器)」の使用を含む心肺蘇生を行うこと。今年は市民がAEDを使用できるようになって20周年という節目である。今一度AEDに対する意識、知識が高まることを願いたい。そしてこのタイミングで、Bリーグではリーグに関わる選手、スタッフ、来場者、すべての人の命を救うための試みをさらにレベルアップさせようとしている。 昨年7月に立ち上げとなったBリーグの「SCS推進チーム」は、命を守る(Safety)、選手稼働の最大化(Condition)、パフォーマンスの向上(Strength)という理念を持ち、多分野のスペシャリスト、ブレインが協力する先進的かつ画期的な試みである。理念の中でも特に重視しているのは“命を守る”こと。それは選手のみを対象としたものではない。人・物・体制と安全かつ安心な体制を整えて、来場者の命もしっかり守るという意味も含まれている。 設立1年の中で、SCS推進チームは多くの策を講じてきた。知っておきたいことの一つに、試合運営に不可欠なEAP(エマージェンシー・アクション・プラン=緊急時対応計画)の作成がある。これはスポーツ現場の安全体制の啓発を行っているNPO法人スポーツセーフティージャパンの助言もあって作成されたもの。Bリーグでは元々全試合でのAED準備を義務化し、クラブに向けてCPR(心肺蘇生)の講習も行ってきた。しかし、実際の現場では想定外のことも起きるもの。AEDがあり、使い方を知っている人がいたとしても、誰が取りに行って誰が救急車を呼ぶのか、また誰が倒れた選手に対応するのか、といったことを明確に決めておかないとタイムロスが生じてしまう。その計画こそがEAPなのである。Bリーグではその形骸化を避けるために、試合前に取り決めを確認するEAPハドルの時間を設けることも義務化している。 スポーツにおける死亡事故の三大要因は、“トリプルH”と呼ばれる心疾患、頭頸部外傷、熱中症に関わるもので、実に9割程度あると言われている。スポーツセーフティージャパンの協力の下でEAPを作成し、さらにその盲点をつぶし、スピードアップを図るためにシミュレーションも実施。各クラブは、そうしてより実践的なEAPの作成に至っている。 「オンコート(選手)、オフコート(来場者)両方の安全を守るためにEAP導入を推進する競技団体は珍しく、画期的なことです」とスポーツセーフティージャパン一原克裕氏は語る。しかし、SCS推進チームとしては、試合会場で起こる不測の事態に対して“より早く、より広く対処するための策が必要だ”と考えていた。 例えば心肺停止の方に対して、AEDの使用が遅れると1分ごとに10%生存率が下がると言われている。救急車の平均到着時間は10.3分。イベント会場の場合、人の多さや渋滞も予想されるため、救急隊による処置が遅れることは濃厚だ。また、いざという事態の中でAEDの使用に5分以上かかる可能性もある。そこでいち早く対応できる人がいたら…。それこそ「ファーストレスポンダー」と呼ばれる存在だ。文字どおり“最初に対応する人”という意味で、負傷者や病気の人に初期のケアをする知識を持った方たちだ。今回、その部分でサポートを行うことになったのが、かねてよりEAPを実践するうえでスポーツファーストレスポンダー(以下「SFR」)の重要性を提唱していた国士舘大学だ。同大学は2000年に、4年制大学として初めて国家資格である救急救命士の養成課程を開設。これまで学生ボランティアと共に大学スポーツやビーチバレーやJリーグ、2020TOKYOオリンピック・パラリンピックでのSFRの配置や、東京マラソンをはじめとするマラソン大会など、数多くのスポーツイベントでメディカルサポートを行なってきた。Bリーグでも「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2023-24」で国士舘大学が約25人の体制を組み、アリーナ内各所に待機。ファーストレスポンダーとなるべく、緊急事態に備えていた。