無理は禁物。子どもの心の回復のために、周りの大人がするべき聞き方・話し方
子どもがトラウマ体験を明かすときの、話の聞き方
子どもがトラウマとなった出来事そのものについて初めて話すことを「開示」といいます。子どもには開示をしない理由がたくさんあります。「こんなことがあって……」と話し始めても、じつはなかったと否定したり、別のことを言ったりするのは自然なことです。たとえ子どもが自分の話したことを撤回したとしても、子どもが語った出来事が「なかった」という判断は正しいとはかぎりません。 そもそも子どもは「話しても安全・安心」と思えなければ、自分の体験を開示できません。相手がちょっとでも驚いたり、疑ったり、こうだろうと思い込んでいると、それを察して話さなくなってしまいます。無理に聞き出そうとするのではなく、子どもの気持ちに焦点を当てながら、話を共感的に受け止めることが大切です。 そこで、子どもを傷つけない、場合によっては、より専門的な機関につなぐために役立つ聞き方のポイントを以下にまとめてみました。「なにか困ってない?」と尋ねても、子どもはなにを聞かれているかわからないかもしれません。まずは日常の具体的な例から、子どもの話を聞いてみましょう。 【気がかりな様子がみられるときの声かけと聞き方】 ●オープンクエスチョン 誘導をかぎりなく少なくするために、「はい・いいえ」で答えさせる質問は避ける。通告(児童相談所や市区町村などの公的機関への相談)しなければならない可能性があれば、子どもの述べた言葉をそのまま記録に残す。 ●根掘り葉掘り聞かない 子どもが自分から話すならよいが、聞く側が詳細を掘り起こそうとしない。子どもは長い間秘密をかかえていることもある。すべてを一度に話さなくていいことも伝えておく。 ●心理教育 「あなただけではないよ」「あなたは、ちっともおかしくない」など、トラウマの理解に基づき、子どもの考え、気持ち、行動が自然なことであることなどを伝えていく(「正常化」)。 子どもの心を守るいちばんの保護要因は、少なくとも一人の大人と、緊密かつ支持的な関係性を築けていることとされます。長くかかわれる立場にある人なら、「あなたの心や身体、人生がよりよくなっていくための道のりを、これで大丈夫と思えるところまでいっしょにいる」と伝えることで、子どもの安心感は増すでしょう。 〈子どもから虐待被害を告げられたら? 知っておきたい、地域や専門機関に頼る方法〉へ続く
白川 美也子(精神科医・臨床心理士)