クオリティよりも「コスパ」重視…1話1分「縦型ショートドラマ」製作の知られざる舞台裏
食べ物で言えば「牛丼」
あくまで人を引き付けることに特化したコンテンツであるため、ショートドラマは従来の映画やドラマとは製作方法も大きく異なるという。 「社会の発展により、人々は気が短くなっている。ショートドラマの視聴者も早い展開のコンテンツを求めています。ですから、物語はシンプルでなくてはいけません。出演者の顔をアップで映し、数秒で喜怒哀楽が理解できるようにするなど演出もわかりやすくする。フックや伏線を多用し、感情をあおり少しでも動画からの離脱を防ぐ。こういった点を意識して、コンテンツを製作することが求められます」 そもそも、ショートドラマの視聴者が求めているものは、クオリティの高い映像作品ではない。ショートドラマの制作やローカライズに関わる中で、金氏はそう感じていると言う。 「芸術性が高い――見ていてそう感じるショートドラマは多々あります。しかし、そういった作品が必ずしも視聴回数が多いわけではありません。むしろビジネスとしてうまくいっていないケースの方が多い。視聴者がショートドラマに求めているものは、食事で言えば『ファストフード』のようなものだと感じています」 日本を代表するファストフードと言えば牛丼だ。元祖牛丼チェーン・吉野屋の売り文句は「うまい、安い、早い」である。ショートドラマに置き換えれば「おもしろい、短い、早い」になるのだろうか。金氏によれば、ショートドラマはビジネスモデルもファストフード的なのだそうだ。 「ショートドラマビジネスでは、職人的なこだわりはあまり求められません。できるだけコストを削減し、製作工程、課金システム、広告、プラットフォーム運営などを効率的かつシステム化する。売れるものはクオリティにあまり関係なく売れますから、いかにシェアを拡大して広く売っていくかが重要です」 作品づくりにおいて、“芸術性”や“こだわり”といった数値化しづらい要素があまり介入しない分、製作コストを抑えられ、短いスパンで大量に作品を制作できる。そのため、ビジネスとして成立させやすい点もまたショート動画の魅力だというのが、金氏の見立てである。 「ショートドラマの1シーズン(約80話)の製作にかかる時間は1週間。だいだい2,3か月で配信できるようになります。予算も多くて2000万円ほど。安くたくさん作れるので事業展開がしやすい。また、実はショートドラマ1作品当たりに視聴者が支払う金額は決して安くはありません。 中国だと1作品は、1話1分で80話ほどが一般的です。課金して全話視聴するとだいたい6000円になる。チケット1枚に2000円くらいかかることを考えると、映画の約3倍に当たる金額です。そうした背景もあり、現在アプリユーザー数1位である中国のショートドラマアプリ『ShortMax』は、事業開始から1年ほどで黒字化を達成しています」