トランプ返り咲きで米クラフトビール業界は先行き不透明に 関係者は戦々恐々
ここ数年厳しい状況に直面している米クラフトビール業界は、「ドナルド・トランプ大統領」の返り咲きが業界にどのような影響を及ぼすのかを不安と共に注視している。 米大統領選のほとぼりが冷めやらぬ中、全米はもちろん世界中のあらゆる産業界が、第2次トランプ政権は業界の利益になるのかどうかの見極めに余念がない。すでに共和党は上院で過半数を奪還し、下院でも多数派を維持する公算が高い。つまり、トランプは米経済政策に関して妨害を気にせず自身のビジョンを追求できるのだ。 米ビール業界、特にクラフトビール業界は、政界の動向に神経をとがらせている。輸入ビールや関税、酒類消費量の減少といった問題に翻弄され、売り上げは右肩下がりだ。仮に、熱狂的な人気を誇るメキシコビール市場や輸入ビール市場全体に高い関税が課されれば、消費者が国産ビールを選ぶようになり、販売量の低下に歯止めがかかるかもしれない。だが、その利益を相殺しかねない問題がいくつもある。 小規模醸造所の業界団体である米ブリュワーズ・アソシエーション(BA)によると、2023年の米国のビール生産量は5.1%減、クラフトビールの生産量は1%減だった。これらの数字は、2023年の米ビール販売量の減少を反映したものだ。 小規模な独立系醸造所によって築かれ支えられてきたクラフトビール業界にとって、市場の不確実性は深刻な結果をもたらしかねない。米国のクラフト醸造所は2023年に9906カ所を数え、72カ所の純増となった一方で、405カ所が事業を閉鎖した。これは、業界が大成長を遂げたコロナ禍以前とは対照的な変化である。 BAの中間報告では、2024年もこれらの問題は継続しており、クラフトビールの売り上げは前年比2%減となっている。調査対象となった醸造業者が特に懸念していたのは、インフレと物価上昇による売り上げへの影響だ。
関税引き上げなら、アルミ缶価格や醸造設備に深刻な打撃
全米の醸造業者を何より不安にさせている要因は、トランプが輸入品に関税を課すことである。かつてのトランプ政権は国際貿易協定をやり玉に挙げ、複数の協定から米国を離脱させ、多数の輸入品目に一律関税を課した。米ビール協会と全米ビール卸売業協会の隔年調査によれば、2018年にトランプがアルミニウムに10%の輸入関税を課した際、クラフトビール業界は、消費者にとって値上げにつながり、4万人の雇用喪失につながると批判していた。 この点は、2024年大統領選直後にBAが発行した会員向けレターでも強調されている。BAは小規模な独立系醸造所にとって問題となりうる懸念事項を複数挙げ、トランプが関税引き上げや新たな関税の導入を強く主張していることを警告した。高関税は、アルミ缶の価格設定や醸造設備に深刻な打撃となり得る。いずれも中国からの輸入に大きく依存しているが、トランプは選挙演説の中で、中国からの輸入品に一律60%の関税を課すと公約している。 BAは他にも、トランプ次期政権下での税関連の懸念事項について会員に警鐘を鳴らしている。個人事業主、パートナーシップ、S法人などのパススルー事業体に対する20%の税額控除は2025年に期限切れを迎えるため、醸造所に影響が広がるおそれがある。また、タップルーム(ビール専用バー)、レストラン、バーのフロア係のチップに対する所得税の非課税化案も議論の俎上に載っている。推計100億~250億ドル(約1.5兆~3.8兆円)の税収減を補填するために、米政府が別の税金や財源確保策を導入する可能性があるとBAは警告している。 最後にBAは、連邦政府機関の予算が全面的に削減される可能性が高い点に注意を促している。米ビール業界を監督する酒類たばこ税貿易管理局(TTB)や農務省農業研究局(USDA-ARS)をはじめ、醸造に深く関わる政府機関の予算が削減された場合、新作ビールやラベルの大量生産の承認、醸造用の新しいホップや穀物の開発など、多岐にわたるさまざまな課題の解決に多くの障害が立ちはだかりかねない。 こうした潜在的な課題の数々は、いずれもビール業界にとって幸先がよいとはいえない。少なくとも、ただでさえ厳しい状況にある酒類市場、特にビール市場が、この先さらに混迷を増すだろうことは確実だ。
Hudson Lindenberger