効くはずのない「健康食品やサプリメント」が堂々と売られているという「衝撃的な現実」
老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。 【写真】「うつによる仮性認知症」と「本来の認知症」の見分け方 世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれていますが、果たしてそのような絵空事で安心していてよいのでしょうか。 医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語ります。 *本記事は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
迷える子羊をさらに迷わせる
老人デイケアのクリニックにいたころ、利用者さんや外来診察の患者さんによく言われたのが、「テレビでこう言うてましたけど」というセリフです。 少し前には「週刊誌にこの薬は使ってはいけない、この手術は受けてはいけないとか書いてましたが」ともよく言われました。 ネットや新聞を含め、世の中には健康食品、がん予防、認知症予防、先進医療の紹介、名医の紹介、病院ランキングなど、医療と健康に関する情報があふれています。よくぞこれだけネタを集められるものだと感心するほど、微に入り細をうがつような内容もあります。これらはまったくのウソではありませんが、針小棒大、我田引水、羊頭狗肉がまかり通っています。 昼間の健康ワイドショーで紹介された食品が、夕方、スーパーの店頭から姿を消すというのも、よく言われたことです。 テレビや新聞や週刊誌が、あの手この手で健康情報を発信するのは、それだけ求める人が多いことを物語っています。メディアも営利企業ですから、できるだけ売れる内容を重視します。勢い、インパクトはあるけれど不正確だったり、わかりやすいけれど極端な例だったり、まだまだ実現の可能性は薄いのにすぐ使えそうな誤解を与えたりして、受け手を惑わせます。 これだけ健康情報が求められるのは、世間の側に不健康な状況であるという自覚があるからでしょう。喫煙、暴飲暴食、睡眠不足、満員電車、過労、排気ガス、人間関係のストレス等々、健康を害し、寿命を縮めるような要素に包囲されているので、健康食品や健康グッズ、あっと驚く裏ワザなどでなんとか健康を維持したくなるのです。しかし、もともとの不健康な状況を放置して、健康増進に努めるのは、穴の開いたバケツで水をくみ出すのと同じです。まず、穴をふさがなければ。すなわち、バランスの取れた食事、十分な休養と睡眠、適度な運動と気分転換、きれいな空気と節酒禁煙です。それが簡単にはできないので、ますます健康情報が求められるのでしょう。 しかし、与えられるのは売らんがための派手でわかりやすく、医学的な説明もあっていかにも効果がありそうな“商品”としての情報です。 医師会や大学教授、医学界の重鎮らが提供する情報もありますが、いずれも人々を医療に誘導するものばかりでしょう。そうしないと医療界は潤いませんから。もし、この検査は受けなくてもいいとか、この治療は必要ないですという医者がいたら、信用してもいいでしょうが、責任問題があるので医者も患者さんを医療から遠ざけることはなかなか言えないのが実情です。 迷える子羊をさらに迷わせる最たるものは、健康食品、サプリメントの広告です。これらの中には論理的に効くはずのないものが堂々と売られていたり、さも効果がありそうに推奨されたりするので要注意です。 よくあるのが、好感度抜群の俳優やタレントさんが、「○○を何年のんでます。こんなに元気に歩けています」という類いの宣伝です。「○○を飲んでいるから歩けています」とは書いていません。そう書くと公正取引委員会あたりから指導を受けるのでしょう。しかし、見るからに○○のおかげで元気に歩けているのだと感じさせます。ウソは書いていません、誤解するのはそちらの自由と言わんばかりです。 これらの広告には、よく虫眼鏡で見なければ読めないような但し書きが書かれています。絶賛の発言のあとに「個人の感想です」とか、医薬品と謳いながら、実は「第3類医薬品」で、それは『副作用・相互作用などの項目で安全性上、多少注意を要するもの』などの但し書きです。そういうことを書くことが義務づけられているのかもしれませんが、単なるアリバイ作りとしか思えません。 広告を見るときは、大きな文字は無視して、できるだけ読まれたくなさそうな小さな文字に目を凝らすべきでしょう。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)