出口夏希の“媚びない愛嬌”という武器 『ブルーモーメント』に“緩急”を与える存在に
「今まで救えなかったこぼれ落ちてった命、でもSDMだから救える命がある。俺はそう信じてる」 【写真】『ブルーモーメント』第4話場面写真(複数あり) 気象災害から人命を守るために活動するSDM(特別災害対策本部)の奮闘が描かれる『ブルーモーメント』(フジテレビ系)。その中でチーフ/気象研究官を務める主人公・晴原柑九朗(山下智久)の言葉だ。 正確な気象予想で人命を助けることに全神経を集中させる晴原と、助手として雇われた雲田彩(出口夏希)の初対面は最悪だ。彩に目を合わせず「不採用」と言い渡す晴原に、彩は怯まず食ってかかる。癖の強そうないかにもとっつきにくそうな上司に対して、対等に自分の言い分は通す“打てば響く”彩の反射神経の良さと気の強さが瞬間にして伝わる。 ポーカーフェイスな晴原に対して喜怒哀楽を剥き出しにできる彩という助手がいるからこそ引き出されるテンポの良さがあり、彼の魅力が立ち上る。さらに、帰国子女の彩は感情的になると思わず中国語が飛び出すという直情型のキャラクターで、晴原といると、“動”と“静”、“陽”と“陰”の緩急が自然と生まれる。 そして、失礼のラインをギリギリ攻め合うような2人の掛け合いながら、それが嫌味にならずうるさく感じてしまわないのは、出口の持つ一本気な雰囲気と媚びない愛嬌があるからこそだろう。 「気象に興味がある」わけではないが「気象に興味がないとも言っていない」という頓知のきいたやり取りは、実は彼女が気象にまつわる悲劇や傷を抱えており、それに少しでも触れられまいとする護身術のようなものであることがすぐにわかる。
『君が心をくれたから』『いちばんすきな花』に溶け込んだ出口夏希の”自然体”な演技
彼女には姉・真紀(石井杏奈)と共に3年前につむじ風によって被災した過去があり、そして自分だけは無傷で姉は後遺症を抱えることになったようだ。 ドライバー兼料理人で災害孤児のひかる(仁村紗和)は、被災という圧倒的理不尽について「ただただ運が悪かっただけ」という唯一の答えに辿り着いたとしていたが、彩の中では、まだまだ消化不良で現在進行形で巻き起こる感情が湧いてくるのをなんとか抑えているようだ。あまりに身近な姉妹という関係の中で、ほんの少し目と鼻の先の距離で明暗が分かれてしまった残酷さに、自分だけが助かってしまった事実に苦悩し続けているからこそ、それを悟られまいと普段は気丈に振る舞う。そんな苦悩さえも贅沢で身勝手なことのように思えてしまい、誰にも打ち明けられず自身を責め続ける。災害の現場で自分のことのように傷つき人知れず共鳴する彩の繊細さは、災害が起きた際に何もできない自分への悔しさやもどかしさにも繋がっていったようだ。 もっと苦しい思いや葛藤を抱えることになるかもしれないのに、それを背負って立つように気象予報士を目指そうとする彩は、苦難を誰のせいにもせず自力で自分の傷に立ち向かおうとする人だ。 『君が心をくれたから』(フジテレビ系)では、朝野太陽(山田裕貴)の妹の春陽役を好演していた出口。春陽もまたはっきりとした物言いの裏に家族想いで自分のことよりも周囲を優先するようなところが垣間見えていた。 『いちばんすきな花』(フジテレビ系)では、4人の主人公それぞれに違う場所で影響を与えていたキーパーソン・志木美鳥(田中麗奈)の大学時代を熱演。本人が望むと望まざるとにかかわらず周囲に溶け込みきれない違和感を纏っていて、周囲からの興味を刺激してしまう要素を持ち合わせてしまった役どころを自然体で演じのけた。寂しげなのに凛とした不思議な存在感を漂わせる美鳥から目が離せなくなった。出口が演じるキャラクターは、全てを自分で引き受けてしまうような強さや不器用さを持ち合わせている。 さて、そんな彼女扮する彩が本作の第4話では姉との過去にどんなふうに向き合い、乗り越えようとするのか。 毎週各話に登場する気象用語が晴原がわかりやすくSNSで解説する「ハルカンのお天気用語解説」で、第3話のキーワードとして紹介されていた「局地風」。第4話でも風の威力や恐ろしさをまざまざと経験した彩が、どうやって災害救助の場に立ち合い、役立とうとするのかに注目したい。
佳香(かこ)