近未来の描写が半端ない「シビル・ウォー アメリカ最後の日」で覚えておきたいこと【コラム/細野真宏の試写室日記】
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。 【動画】「シビル・ウォー アメリカ最後の日」予告編 また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。 更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑) 今週末の2024年10月4日(金)から「シビル・ウォー アメリカ最後の日」が公開されます。 映画に多少なりとも詳しければ「A24」を知っているでしょう。2012年に設立された新進気鋭のハリウッドスタジオで2015年に、配給権をいち早く購入した「ルーム」「エクス・マキナ」がアカデミー賞で注目を集めました。 「ルーム」は、アカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「主演女優賞」「脚色賞」にノミネート。「主演女優賞」を獲得し、主演のブリー・ラーソンにとっての出世作となりました。 同様に「エクス・マキナ」は、「脚本賞」「視覚効果賞」にノミネートされ、「視覚効果賞」を受賞しています。 初めて製作も手掛けた「ムーンライト」は2016年に公開され(日本公開は2017年3月)、アカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「助演男優賞」「助演女優賞」「脚色賞」など8部門でノミネート。「作品賞」「助演男優賞」「脚色賞」の3部門でオスカーに輝きました。 このように、アカデミー賞で“目利き”であることが早々に証明されていったのです。 この流れが決定的となったのは2022年。A24が製作した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」がアカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「助演男優賞」「助演女優賞」「脚本賞」「編集賞」など11ノミネートを果たしました。 そして、「作品賞」「監督賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」「脚本賞」「編集賞」の7部門でオスカーに輝いています。 ちなみに、「主演男優賞」を受賞した「ザ・ホエール」もA24が配給した作品。その結果、A24はアカデミー賞で史上初の「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」の主要6部門を独占した映画会社にもなったのです! このように、独立系の映画会社でありながら、わずか10年ほどで大きな存在感を放っているのがA24なのです。 そんなA24が“A24史上最高額”となる予算を投じて製作した勝負作が「シビル・ウォー アメリカ最後の日」なのです。 この作品で最も注目したいのは、監督と脚本を担当したアレックス・ガーランドです。 アレックス・ガーランド監督の映画監督デビュー作は、A24がいち早く配給権を購入した「エクス・マキナ」(2015年製作)。つまり、アレックス・ガーランド監督の才能に惚れ込んだA24が大きな勝負に出たわけです。 この「エクス・マキナ」は、アカデミー賞で話題になったにもかかわらず日本では小さな規模で公開されただけなので、意外と知らない人が多いのかもしれません。 そこで、「エクス・マキナ」から簡単に解説します。 「エクス・マキナ」は、ほんの少し先の近未来が舞台で、人間(男性)とAI(女性)とのやり取りを描いています。 この先、AIの進化によって、人間とAIとの関係性がどのように変化し得るのかを「男女のやり取り」で表現していますが、何ともリアルで驚きました。 この作品が、アカデミー賞で「脚本賞」「視覚効果賞」にノミネートされたのは当然とも言えます。 受賞を果たしたのは「視覚効果賞」。これは「ゴジラ-1.0」が受賞し話題となった部門です。 日本の報道では、この「視覚効果賞」は、「アバター」などの超大作映画が受賞する賞となっていましたが、実は、「ゴジラ-1.0」に先駆けて低予算の「エクス・マキナ」が受賞していたのです! 「エクス・マキナ」で、アレックス・ガーランド監督作品は、脚本と映像のクオリティーが非常に高いことが証明されました。予算を大幅に増やして、この才能を遺憾なく発揮したのが「シビル・ウォー アメリカ最後の日」なのです。 「シビル・ウォー アメリカ最後の日」は、ほんの少し先の未来のアメリカが舞台で、分断が進み、現在の50州のうち、19の州が離脱するという状況が生まれています。 そもそもアメリカ合衆国は、50の州が集まっていますが、それぞれの州が「国」のような存在なのです。 本作では、「テキサス州」と「カリフォルニア州」からなる「西部勢力」と、「連邦政府」による内戦が勃発したという状況を描いています。 劣勢となっているのは「連邦政府」。大統領がメディアのインタビューを受けていない状況が14カ月も続くことになっています。 そこで、キルステン・ダンスト(「スパイダーマン」シリーズなど)扮する戦場カメラマンらジャーナリストが、戦場と化しているアメリカで首都ワシントンのホワイトハウスに向かい、大統領のインタビューを試みようとします。 本作で興味深いのは、こまごまとした説明はなく、主人公らの目線で状況などを体感できるように作られている点です。 とにかくリアリティーには定評のあるアレックス・ガーランド監督作品なので、知識ゼロでも問題ないのです。 文字通り「体感型の作品」なので、IMAXなど、できるだけ環境の良い映画館で見ることが重要な作品と言えるでしょう。 「シビル・ウォー アメリカ最後の日」は、一足早くアメリカで公開されていますが、興行収入ランキングで2週連続1位を記録しています。 近未来の描写が半端ないということは、それだけディテールにこだわり、緻密に脚本や映像を仕上げることができていることを示しています。 そして、これを実現するのは非常に論理的かつ映像センスが必要不可欠。その思考力と表現力を併せ持っているのがアレックス・ガーランド監督です。 つまり、「アレックス・ガーランド監督作品」は今後も注目すべき作品で、「A24」と共に覚えておきたい代名詞なのです。