ある女性の「絵日記」漫画が90万部突破&ドラマ化。4人の読者に聞く「つづ井さん」の魅力
「前世からの友」の圧倒的魅力
同時に、「推し活」エピソード以上に私を含む全員が圧倒的魅力として感じていた点がある。 「前世からの友」と作中で称されている、つづ井さん、Mちゃん、ゾフ田さん、オカザキさん、橘さんからなる5人グループだ。作中では全員が「オタクで腐女子」「凝り性な成人女性」として紹介されている。 ある女性声優を10年以上推し続けている30代のヒトミさん(仮名)は、「みんなジャンルが違うのに、いつも楽しそうにワイワイしてるのがめっちゃいい」と語る。 つづ井さんは舞台俳優が推しだが、オカザキさんは超メジャーな男性アイドルグループ、ゾフ田さんは女性アイドルグループ……など、それぞれ推しのジャンルが異なっている。 ヒトミ: : 私にもオタク友達はいるけど、自分の推しについて話すことはあまりしません。向こうが分からないので。だけど、つづ井さんの友達はみんな自分の推しが尊くて、みたいな話をする。分かり合えてる感じがすごいなと思います。Youtubeやったら人気出そうって思うくらい(笑) 同時に、自分の推しについて遠慮なく語り合える背景にはビジネスシーンでよく語られる「心理的安全性」も関わってきそうだ。 ミキ: : 皆とても仲が良いけれど、仲の良さから来る扱いの雑さや、人格を否定したり傷つけたりするようなディスりがない。日常的にお互いに褒めあったり気遣いを感じるところが読んでて心地いいし、憧れます。 30代のリエさん(仮名)は、登場人物の一人であるゾフ田さんと、他4人の距離感が好きだという。 リエ: : ゾフ田さんは冷静な性格ということもあって、みんなと若干距離があるんです。でも、『あの子は私たちと距離感が違うから、あまり遊ばないようにしよう』とはならず、その距離感を尊重してる。常に全員が健やかであるところが素敵なんです。 マユミさんはつづ井さんの推しの舞台にMちゃん、オカザキさんが一緒に行ってくれたエピソードに触れた。 マユミ: : こういう友達がいたら、一緒に趣味も広げられるだろうし、羨ましいです。 ここまで聞くと、つづ井さんたちの日常はホワホワした平和な様子を想像しそうだが、彼女たちは好戦的な一面も持っている。すぐに「選手権」と題して、競争をしようとするのだ。 これまでに開催された選手権を列挙すると、「彼氏おりそうなツイッターアカウント選手権」「恋人がいそうなクリスマス選手権」「リモートちょっとしたパーティ選手権」などがある。 選手権でなくとも、「推しへの思いをテーマにラップバトル」をしたり、家に泊まる際に誰からお風呂に入るかを決めるために部屋の中で相撲をとったりする。 リエさんは、こういった競争も含め、前世からの友を「自分を楽しませるプロ集団」と形容する。 リエ: : 争いすら楽しみとして昇華するんですよ。一人ひとりが推しや作品に没頭するだけじゃなくて、みんなで何をしたら楽しいかを考える力が全員にある。個人的にはMちゃんの楽しむ力には狂気さえ感じて好きですね。 なお、「前世からの友」というネーミングについては、Mちゃんが他メンバーと初対面で出会った際に「私はこの4人、前世からの友人だと思ってるから。やっと会えたね」という発言をしたことに由来する。 ただ楽しそうなだけでなく、意見の対立が生じても、自分たちが納得できる妥協点を楽しみながら探れる前世からの友はやはり心理的安全性が高いと言えるだろう。 言うまでもなく、職場でも家でもない場所に、こうしたコミュニティが存在することの価値は計り知れない。マユミさんは「たとえ趣味が違っても、認め合える関係性を持ちたいと考えてる人が最近すごく多いように感じる」と指摘する。 マユミ: : 最近『マダムたちのルームシェア』っていうマンガもSNSで人気で。年配の女性たちが一緒に住む日常を描いてるんですけど、一緒に銭湯に行ったり、ピクニックして手作り弁当を交換したりしていて、こんな老後いいなって羨ましくなってます。 「腐女子のつづ井さん」巻末の解説では、作家のアルテイシアさんが本作の魅力について「女の友情とシスターフッドが描かれている」と評している。 “つづ井さんの漫画を読むと、「女に生まれてよかった」と思えるのだ。ジェンダーギャップ指数121位のヘルジャパンで、生きづらさと将来不安のデスロードだけど、それでも女友達がいれば大丈夫、きっと楽しく生きていけると。”(『まるごと腐女子のつづ井さん』 解説より引用)