ある女性の「絵日記」漫画が90万部突破&ドラマ化。4人の読者に聞く「つづ井さん」の魅力
ある女性の「絵日記」漫画が売れている。 シリーズ累計で90万部を突破し、文化庁メディア芸術祭の推薦作品に選出。ついにはテレビドラマ化を果たし、2024年10月10日から読売テレビで放送されている。 【全画像をみる】ある女性の「絵日記」漫画が90万部突破&ドラマ化。4人の読者に聞く「つづ井さん」の魅力 作者の名前は、つづ井さん。一体なぜ、つづ井さんの絵日記がここまで売れているのか。 本シリーズの魅力を、4人の読者の声と共に紹介したい。
読むと、推しがほしくなる
私が感じる本作の魅力を先に言ってしまうと、「推し」に目覚めた人の喜びと悲しみを凝縮しつつ、読者からすると「理想的」とも言える友人たちとの交流の様子が描かれている点にある。 本作を読んだ多くの人は、つづ井さん、そして彼女の友人たち「前世からの友」の虜になってしまう。そして、誰かを「推し」たくなるのだ。 「つづ井さん」の絵日記は、大きく分けて3つのシリーズがある。『腐女子のつづ井さん』『裸一貫!つづ井さん』『とびだせ!つづ井さん』だ。 1作目の『腐女子のつづ井さん』は、2014年10月にTwitter(現・X)にポストされた絵日記から収録しているため、実に10年に及ぶ日々を記録していることになる。 題名から分かる通り、当初はいわゆる「腐女子(BL=ボーイズラブを愛する女性たち)」である作者・つづ井さんと、友人たちとの日常を記録する漫画として始まった。 だが、『裸一貫!つづ井さん』からその色は薄まり、舞台俳優の「推し」ができたつづ井さんの推し活エピソードや、友人たちとの楽しい日々に焦点を当てる漫画としての色が濃くなっていく。 推しがいる20代のミキさん(仮名)は、「つづ井さんは、生活の中心に推しがいて、さまざまな行動に推しが起因しているところに共感します」話す。 つづ井さんは、初期には漫画やアニメなど「二次元」のキャラクターを推し、どちらかと言うと、休日は家にこもっている様子が描かれる。それが「三次元」の推しができてからというもの、日帰りで名古屋から九州まで遠征し、1カ月の給与のほとんどがチケット代に消えるという劇的な変化が起きる。 ミキ: : 私も推しのライブのためなら大阪とか名古屋まで全然行くし、推しジャンルとコラボしてるカフェやカラオケにも行きます。休日の予定は推し関連になってるし、推しの配信に合わせて帰宅したりするから生活リズムまで変わったりしますね。 つづ井さんが推し活する姿も実に楽しそうだ。推しが出演する舞台に涙する様子はもちろん、差し入れのプレゼントを選ぶためにセレクトショップに行って悩んだり、開催されるかもしれない握手会のために友人たちと握手の練習をして本気で照れてしまう姿がほほえましい。 30代のマユミさん(仮名)は「つづ井さんを読むと、推しがほしくなる」と話す。 マユミ: : 私は〇〇オタクというジャンルがないことがコンプレックスで。特定の推しもいたことがないし、誰かに夢中になれたことがほとんどありません。だけど、つづ井さんを読んでいると、自分で自分を楽しませるためにすごく一生懸命で。二次元の推しがいた時に、推しの身長にテープを貼って楽しむエピソードには感動さえしました。 同時に、彼女を追い詰めるのもまた、推しである。つづ井さんの推しはSNSもやっておらず、インタビューも存在しない。極端に情報が少ないのだ。 そのため、友人たちに苦し紛れに「推しの『ない話』をしてもいい?」と理想の推し情報を語り、「推しのことを『理想のおじさん像なすりつけられ人形』にしてしまっている」と反省する姿はあまりにも切ない。 芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』の宇佐見りんさんは、過去にBusiness Insider Japanの取材に対して「推すことの切実さを文学にしてみたかった」と語っている。つづ井さんにもまた推すことに対する切実さを感じざるを得ない。 だが、全編を通じてあくまで「読み返して楽しい絵日記」として描かれているため、推し活にまつわる悲喜こもごも追体験する上で、これ以上ない作品と言えるのだ。