日鉄によるUSスチール買収阻止に向けた論拠、米財務省が書簡で提示
(ブルームバーグ): バイデン米大統領は日本製鉄による141億ドル(現行レートで約2兆1520億円)でのUSスチール買収計画を阻止するために国家安全保障上の理由を挙げるとみられている。日鉄の買収案の審査を進めてきた対米外国投資委員会(CFIUS)に代わり、米財務省が先に両社に送付した書簡でその詳細な論拠が明らかになった。
8月31日付けの書簡では、買収による国家安全保障上の懸念を指摘。「こうしたリスクは国内の鉄鋼生産能力の低下につながりかねない判断を日鉄が下す可能性に関連している」とした。
こうした結論に至るに当たり、CFIUSは「強靱(きょうじん)な商業用鉄鋼市場は国家安全保障に不可欠と考えられる」との商務省の分析に依拠。ブルームバーグニュースが確認した書簡によると、CFIUSは商務省の専門家による評価や報道内容、企業からの提出資料など機密・非機密の双方の情報を利用したという。
財務省は国家安全保障を巡る分析の根拠として、トランプ政権1期目の2018年の鉄鋼関税賦課を裏付けた調査に言及した。
CFIUSは日鉄の買収案に関し、軍装備品だけでなくインフラ向けの生産にも不可欠な産業への脅威となるとする新たな主張に大きく依存している。
バイデン氏がこのような理由で買収を阻止すれば、政府の国家安全保障を巡る定義が、スパイ活動、データ収集、技術窃盗といった一般的な懸念に加え、米経済への脅威も含むように拡大される可能性がある。
そうなればCFIUSにさらに権限が与えられる可能性があり、CFIUSの論拠が政治的動機に基づいているとの批判にさらされるリスクがある。
ブルームバーグは10日、バイデン氏が同買収計画について国家安全保障を理由に正式に阻止する計画だと報じた。
報道を受け、USスチールの株価は9.7%安の35.26ドルを付けた。日鉄が提示した買収価格の1株55ドルを大きく下回り、なお下落が続いている。12日の米株式市場では一時3.4%安となった。