ブラックホールの謎に迫る 通信不能のX線天文衛星「ひとみ」が背負う期待
「ひとみ」の状況は調査中、続報が待たれるが……
「X線天文学」は、1960年代に始まったとされています。アメリカのブルーノ・ロッシ博士が、1962年にロケットにX線観測装置を載せて、大気の外に送り出したのが始まりです。その後、より長時間の観測が可能な気球を使う観測を経て、1970年にはアメリカが世界初となるX線天文衛星「ウフル」を打ち上げました。 このウフルの観測データからはくちょう座の方向にある強いX線源(はくちょう座X-1)を見つけ、1971年にこれはブラックホールだと考えられると発表したのは、ロッシ博士の弟子にあたる小田稔博士でした。 ブラックホールは理論的にその存在が予想されていましたが、候補天体として見つかったのは初めてのことです。小田博士のリーダーシップのもと、1979年には日本による初めてのX線天文衛星「はくちょう」が打ち上げられ、はくちょう座X-1の精密な観測を行い、その正確な位置を明らかにしました。以来、日本はX線天文学で世界をリードしてきたのです。 その研究は「ひとみ」にも受け継がれ、最先端の技術を結集した今までにない高い精度での観測が行われようとしています。そして、今までの観測では分からなかった宇宙の真の姿やその謎が分かっていくと世界的にも期待されています。 冒頭でも書いたように3月31日現在、「ひとみ」には異常が生じ、現在、関係者は何が起きたのかを把握しようと懸命な努力が続いています。「ひとみ」はX線天文学の鍵をにぎる存在だっただけに、世界も注目しています。関係者の奮闘にエールを送りつつ、見守りましょう。
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 小熊みどり(おぐま・みどり) 1986年、山形県生まれ。東京大学大学院理学系研究科で火星の地形・地質の研究に携わり修士(理学)を取得。2015年より現職