ブラックホールの謎に迫る 通信不能のX線天文衛星「ひとみ」が背負う期待
ブラックホールって何? どう観測するの?
「ブラックホール」という言葉から、宇宙に「黒い穴」がぽっかり開いているのを想像するかもしれません。ですが、ブラックホールの正体は、ものが小さなところにギュッと限界を超えて詰め込まれた結果、全てがつぶれて非常に強い重力だけが残った天体です。 ブラックホールの質量は中心に集中してしまっているので、ブラックホールに「大きさ」というものはなく、その規模は「質量」で考えます。その強い重力のため、ある距離よりもブラックホールに近づくと光さえも出て来られなくなります。 つまりブラックホールそのものを直接観測しようとしても、決して光で見えることはありません。最近ニュースになった「重力波」は、直接ブラックホールを感知できる唯一の手段ですが、ブラックホール同士の衝突など、特殊な場面でしか役に立ちません。 それではブラックホールを見ることはほとんどできないのでしょうか? 実は、ブラックホールの周りはX線で明るく光り輝いている場合が多いのです。ブラックホール周辺の物質は、その強い重力によってブラックホールに引き寄せられ、周りを回る円盤を形成していると考えられています。物質がブラックホールの周りを回るスピードは、ブラックホールに近いほど速いため、その少し外側および少し内側の物質とのあいだに生じる摩擦によって加熱され、X線で光るほどの高温状態になっていると想像されています。
今まで見えなかった遠くのブラックホールを観測する
ブラックホールと言っても、その大きさは千差万別です。小さいものでも太陽の数倍程度の重さがありますが、大きいものでは数十億倍にも達します。これまでの観測から、多くの銀河中心に、巨大ブラックホールが存在することが分かっています。これが「ひとみ」の主要な観測対象です。 研究者たちがブラックホールを調べる第一の目的は、銀河とその中心にある巨大ブラックホールがどのように成長してきたのかを知ることです。 これまでの研究で、バルジと呼ばれる銀河の中心の膨らんだ部分の質量と、その中心にある巨大ブラックホールの質量との間には良い相関があることが知られています。このことから、銀河の中心にある巨大ブラックホールと銀河の中心部分は一緒に成長してきたと考えられますが、その進化の歴史やメカニズムについては何も分かっていないのです。 例えば、銀河同士が衝突・合体するたびごとに、新しい星の生成と、ブラックホールの成長が起こったと想像されていますが、研究を進めるには観測データが全く足りていないのが現状なのです。ブラックホールと銀河が、共にどのように進化してきたのかを知るために、成長段階にある銀河とブラックホールをくまなく観測・分類することで、その進化過程を解明することが考えられます。 「ひとみ」の持つ硬X線(高いエネルギーのX線)領域における高い感度は、そのようなブラックホール探査で大きな成果を上げることが期待されています。それというのも、先代のX線天文衛星「すざく」によって、硬X線でしか見つけることのできない新種のブラックホールが見つかっているからです。 これまで、銀河中心に存在する巨大ブラックホールからの観測は、電波から可視光、X線ガンマ線にいたる広い波長帯で行われてきました。ブラックホール周辺の様々な異なる現象が、それぞれ異なる波長の光で観測することができていたためです。