池松壮亮、ロールス・ロイスに乗る(愛車の履歴書、後編)
主演映画『本心』への想い
せっかく人気俳優に登場いただいたのだから、仕事の話も聞きたい。11月8日に公開された池松さんの主演映画、『本心』についてだ。 本作品は、平野啓一郎さんの同名小説を映画化したもの。AI(人工知能)技術を用いて、亡くなった母をVF(ヴァーチャル・フィギュア)として蘇らせるというのがざっくりとしたストーリーだ。 AIとどう向き合うのか、自由死(安楽死)についてどう考えるのか、といった現代的なテーマを取り上げながら、エンターテインメントとして楽しめる作品に仕上がっている。 「僕が演じた石川朔也は、新しいテクノロジーや社会問題が進む世界に馴染めず、母と死別し、未来で行き場を失っている青年です。これは数年後の自分の話かもしれないと、自分ごととして観ていただけると期待しています。メッセージ性よりも、“未来の迷子エンタメ”として観ていただければと思っています」 朔也の母親役を演じるが田中裕子さん。生前の母親と、亡くなってVFとなった母親との会話は、どのように演じわけたのだろう。 「生前と、VFになってからを田中さんが絶妙に演じ分けしてくださったことが、大きな助けとなりました。実在しない、ヴァーチャルな人物と会話をするというのは近い将来、私たちが経験するものだと思います。亡き最愛の人に会えた心からの喜びと、それがAIによるもので、本当の母ではなく心がないという、あまりに複雑なものを感じました」 田中裕子さんのほかにも、綾野剛さんや妻夫木聡さんなど、本作はキャストも豪華。公開を前に主演俳優としてはなにを思うのだろうか。 「これからの時代に気掛かりなトピックが詰まった、少し先の未来で、打ちひしがれながらも自らの手で世界に触れようとする青年の物語です。同時代を生きる皆様と今作を共有し、これからの時代について大切な方と対話するきっかけになってくれたら嬉しいです」 池松壮亮さんが電動車両に乗って新しい世界が開けたように、映画『本心』も、楽しみながら次の時代について考えられる作品なのだ。
【プロフィール】池松壮亮(いけまつそうすけ)
1990年生まれ、福岡県出身。2003年、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』で映画デビュー。これまで映画を中心に数々の作品に出演、受賞歴多数。映画『宮本から君へ』(2019年)でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほか。2023年度は芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞。2024年は『ぼくのお日さま』、『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』、11月8日から『本心』が公開。 文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・FUJIU JIMI 編集・稲垣邦康(GQ)