クルド人、なぜ解体の仕事に就いている?肉体労働を支える「クルド飯」を食べながら聞いてみた。始まりは30年前の川口に
長く日本に住むハサンさんだが「最近、初めてトルコに帰りたいと思うことがあった」という。きっかけは、昨年以降、クルド人を取り巻く環境が一変したことだ。 昨夏にクルド人男性による殺人未遂事件が発生。男女トラブルが原因で7人のクルド人が逮捕された。搬送先の病院に親族とみられる約100人が集まる騒ぎもあった。SNS上にはクルド人を標的に攻撃する投稿が急増した。 ハサンさんのレストランにも影響があった。突然「ユーチューバー」が店に押しかけてきた。店の前の路上駐車を指摘し、「日本から出ていけ」などと怒鳴られた。対応した従業員と口論になる動画が拡散された。 ハサンさんは「確かにこちらにも悪いところがあった」と明かす。仕事帰りに訪れる客が増え、路上駐車があったのも事実だ。今は駐車場に車を止めるように促し、周辺住民との摩擦を減らそうと努力しているという。 ただ、罵声を浴びせられた事へのショックは大きい。「ガイジンならば何をしてもいいのか。俺たちにも心がある」。そう訴えた。
▽国籍、見た目にとらわれず交流を ヘイトの高まりに悩みながら、地域との関係構築を模索しているクルド人も多い。JR蕨駅や西川口駅前など複数の系列店がある「ハッピーケバブ」を経営するタシ・テイフィキさん(33)もその一人だ。 川口市郊外の、資材置き場が集まる地区の支店は午前5時から営業している。解体業の現場に向かう仲間に故郷の味を振る舞うためだ。店には、クルド人や地域の日本人以外にも多様な国籍の人が訪れ、本格的なトルコ南東部の料理に舌鼓を打つ。 タシさんはトルコ政府の弾圧を逃れて日本に渡った父親を頼り、13歳で来日。20代前半でイベントに出した店が人気となり、「ハッピーケバブ」を開いた。 タシさんの店もヘイトの標的にされた。「中東に帰れ」「ゴミくず」。数カ月前から、店には100件以上誹謗中傷する電話があった。一時予約を受付できなくなった。2月には、店の前をクルド人排斥を訴えるデモが通った。
それでも店を続ける。地域の人々にクルド人を知ってもらい、交流できる場所が必要と考えるからだ。「私たちは同じ人間。怖がることなく、クルド人の食べ物、文化、歴史、なんでも聞いてほしい」