「若手に寄り添う」がうまい中堅教員は何が違うか 即「ジャッジを下す」はNG、共に悩み乗り越えて
4~5年目の若手さんへの寄り添い方
先輩から「あれやった?」「これやった?」と確認してもらう段階を卒業すると、今度は自分の仕事の質が気になり始めます。 ミドルさんとしては「特に言うことがないくらい十分にできている」からこそ、何も言わないだけなのですが、若手さんとしては「何も言われない」ことに対して不安を感じることがあるようです。この段階になると私は、「いよいよ一人前になり始めた証拠だな」と感じて、うれしい気持ちになります。 このような悩みや不安を覚えるのは、周りを見渡す余裕ができて視野が広がり、他者の立場に立って自分の仕事を振り返ろうとしているからです。そこで、若手さんに対しては「あなたのおかげですごくいい行事になったよ。ありがとう。特に子どもたちのやりたいことをバックアップしてあげたところがよかったね」などとポジティブにフィードバックします。 その上で「あなたとしては、何か気になっていることや、もっとできそうだと感じていることはある?」と心境を聞きながら、今後について一緒に振り返りをしていくとよいでしょう。 こうした不安は、まだ経験の浅い若手さんにふとした瞬間に突然襲ってきます。「子どもたちのことがわからない」「子どもたちから自分がどう思われているか不安」などもそうです。 先輩教員に言わせれば、「そんなこと気にしたって仕方がないでしょ。わからないなんて言っていないで、わかるように努力をするしかないよ」「自分がどう思われているかより、子どもたちに何をしたいか、最上位の目的のほうが大切でしょ」なんて言いたくなるところでしょう。 しかし、ミドルさんや周りの教員が「くだらないことで悩んでいるなぁ」と捉えて流すか、「悩んでいるみたいだから成長のチャンスだな」と捉えて、何かきっかけを与えるかどうかで、若手さんの今後の教員人生が変わっていくのです。こうした不安を抱えている若手さんは、大きく3つのパターンに分かれます。 (1)子どもとの距離を感じているパターン (2)実際に大きな原因が隠れているパターン (3)性格的に漠然と不安を抱えやすいパターン (1)については、がむしゃらに子どもと同じ時間を過ごしていた初任時代と比べると、子どもと過ごす時間が減ってしまう若手さんも出てきます。 ミドルリーダーのみなさんはご存じだとは思いますが、いくら同じ空間で同じ時間を過ごしていても、子どもを「見ようとする」姿勢をもっていなければ、何も見えていないのと同じです。そこで、悩んでいる若手さんには「自分は子どもを見ようとしているか」「自分から心の距離をつくってしまっていないか」について、今一度振り返ってみるよう促します。 (2)は、不安に感じた最初のきっかけは些細なものだったとしても、よく調べてみると大きな問題が潜んでいることもあります。 つまり、若手さんも何かしらの予兆を察知している可能性もあるということです。この点を重視し、周りの先生たちも、より若く、より子どもに近い若手さんの感性に目を向けて、若手さんがそう思うに至った経緯に耳を傾けることが大切です。このパターンで必要なことは、安易に「スルーしない」ということです。 (3)は、周りに細やかに気を配り、物事を深く考える力のある若手さんほど、人より多くの悩みや不安を抱えます。そのこと自体は決して悪いことではなく、特異な才能である場合もあるくらいです。ただ、不安ばかりを抱えてしまう繊細さは、若手さんがよりよい教員生活を送る上での障壁ともなりかねません。 そのため、早い段階で「悩んだときはとにかく動く」「不安は動いてかき消す」といったルーチンを身につけられるようにサポートしたいものです。 「雨降って地固まる」。若手さんとミドルさんが共に悩み、失敗しながら成長していく姿を見ていると、そんな言葉が浮かんできます。トラブルやネガティブな出来事は、何も悪いことばかりではありません。乗り越えたその先には、大きな成長や幸せな人生が待っている、ということも多々あります。 悩む力がある若手さんには、その反動で大きく成長する力があります。後ろ向きになる若手さんは、その力の向きを変えて、前向きに行動することだってできます。 ネガティブもポジティブも表裏一体です。物事は何がきっかけとなって好転するか、誰にもわかりません。もしかすると、若手さんが成長するカギは、ミドルさんである「あなた」が握っているかもしれません。 (注記のない写真:すべて東洋館出版社提供) 関連記事 若手教師が育つ学校「中堅教員」のふるまいが違う、ミドルリーダーのあり方とは
執筆:横浜創英中学・高等学校教諭 前川智美・漫画・イラスト:すやすや子・東洋経済education × ICT編集部