『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』【第3話 その4】 何事もテキトーに、テキトーに
BGM代わりに付けていたテレビが、旅客機墜落の一報を告げていた。JAL JL45便だった。ニュースキャスターは興奮を抑えきれない口ぶりで伝えている。現時点でわかることは、乗客乗員全員の生存が絶望的。飛行進路が逸れてから間もなくの事故のため、パイロットの操縦ミスによるものではないかという。 やってしまった。あのCAはジャン=ルイ・ハネケのカナッペだけでなく、パイロットにも盛り込んでしまったようだ。それとも食い意地の張ったパイロットが自分の分だけでなく余ったカナッペにまで手を出したか。今となってはわからない。機体ごと炎上したら遺体から毒物を検出することは難しい。依頼者のリクエスト通りとはいかなかったが、目的は達したということでご容赦願えないかな。何事もテキトーに、テキトーに。 「こわーい」 REIくんのフィアンセが彼の腕にしがみつく。 「こんなニュースばかりですね。どんどん悪い世の中になっているような気がします」 ジェラシーに苛まれながら、僕は精一杯の作りスマイルを浮かべる。 「OK、OK。これからも世界は平和だよ」 三人目の殺し屋、MATSUOKA Shun。コードネーム:OKポイズン
● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司ヶ谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ヶ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補。12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補。13年『タモリ論』がベストセラー。他の著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『無法の世界』、エッセー『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。
文/樋口毅宏 写真/野口貴司(San・Drago) スタイリング/稲田一生 編集/森本 泉(Web LEON)