増加している早期乳がんは“切らない”治療で治す…再発率は切除と同等
早期の乳がんに対する「ラジオ波焼灼療法」(RFA)が、昨年12月から保険適用になった。乳がんの治療は早期であっても手術で切除するのが基本だが、この治療法では“切らずに治す”ことが可能だという。国立病院機構東京医療センター副院長の木下貴之氏に聞いた。 乳がんで左乳房全摘を経験した女優の小栗香織さん…手術を勧められても「即答はできませんでした」 ◇ ◇ ◇ 乳がんは日本人女性の9人に1人が罹患するといわれ、女性に多いがんの第1位を占めている。近年は検診受診率の上昇に加え、画像診断技術や針生検デバイスの発達により、しこりなどの自覚症状が見られない0~Ⅰ期の早期で発見される割合が増えているという。 しかし、乳がんの治療はステージに関係なく手術で腫瘍を切除するのが基本だ。手術には、胸の一部を切除する「乳房部分切除術(乳房温存手術)」と、乳房全体を取り除く「乳房全切除術」がある。 「たとえ0期で発見されたとしても、腫瘍や悪性の石灰化が広範囲に広がっている場合には全切除が避けられない。手術による体への負担だけでなく、胸の変形といった見た目の変化に悩みを抱える人は少なくありません」 そこで注目されているのがRFAだ。RFAは、全身麻酔下で医師が超音波画像で腫瘍の位置を確認しながら乳房に直径1~2ミリの細い電極針(ニードル)を刺入。針先を腫瘍に貫通させたら、AMラジオの周波数と同じ電流を流して、電磁波が発する熱で腫瘍の周囲3センチを焼き切る方法だ。 「通常の細胞と同様にがん細胞は、50度以上の熱で腫瘍組織にタンパク変性が起こりがんが死滅するといわれています。焼き残しがないようRFAでは電極針の温度を70度以上に上昇させ、約5~10分間加熱します。治療時間は1時間程度で、入院期間は2~3泊と短期間で済む。既存の手術に比べて術後の痛みや出血が少なく、切除しなくて済むので乳房の整容性も保てるメリットがあります」 これまで行われてきた臨床試験(RAFAELO試験)によると、術後5年間における乳房内の再発率は、標準治療の部分切除術と比較して同等であると報告されている。 ■認定施設は全国80カ所以上 本臨床研究の代表者でもあり、これまで約350例以上のRFAを行ってきた木下氏は、「女性にとって乳房を取り除くショックは大きく、“どうにか切除だけは避けたい”と訴える方は少なくない。今回、胸を残せる治療の選択肢が増えた意義は大きい」と話す。 術後の合併症として皮膚のやけどや乳房のしこり、皮下出血が報告されているが、いずれも時間の経過とともに改善されるという。 また、標準治療である乳房温存療法と同様に、治療後に放射線治療を組み合わせる必要がある。 「放射線治療を終えた3カ月後に針生検でがんの焼き残しがないか確認し、万が一、腫瘍の残存が見つかった場合には手術を行います。これまでの報告では、部分切除に移行した割合は2.6%程度と少ないことが明らかではありますが、RFAの実施から5年間は定期的に通院して経過観察を行っています」 今回、適用になったのは、腫瘍の直径が1.5センチ以下の早期乳がんだ。ほかにも腋窩リンパ節への転移が認められない限局性早期乳がん、放射線治療や抗がん剤治療の既往歴がない、20歳以上の女性といった厳密な条件が定められている。 「RFAは切除の手間がない簡便な方法なため、2000年代初頭に自費診療下での治療が一部の医療機関で普及して、適応のルールが定められないまま実施されていました。その結果、再発や転移が見つかる患者が続出した苦い歴史があります。そこで、日本乳癌学会は適正使用指針を定め、厳密な適用基準だけでなく、術者側に対しても認定制度を設けています。日本乳癌学会のHPでは患者さん向けにRFAに関する情報が公開されているので、適宜チェックするといいでしょう」 現在、日本乳癌学会が認定しているRFAの承認施設は、全国80カ所以上にのぼる。 早期乳がんは、適切な治療を受ければ5年生存率は95%を超えるのに対し、早期乳がんは自覚症状がないことから自己発見が難しい。 検診を後回しにせず、万が一、早期乳がんが見つかった際に備えて、RFAも選択肢にあることを覚えておきたい。