「賛成は求めない」 半導体の新たな覇者、エヌビディアCEOが3万人の従業員に求めるたった一つのこと
2024年に時価総額が3兆ドル(約468兆円)を超え、アップル、マイクロソフトを抜いて世界一となったエヌビディア。国際技術ジャーナリストの津田建二氏は、同社が躍進を遂げられたのは「半導体とAIの両輪がある」からだと説明する。2024年9月に著書『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』(PHP研究所)を出版した同氏に、エヌビディアが急成長を遂げた要因、日本の半導体産業が学ぶべき同社の経営哲学について聞いた。(前編/全2回) 【画像】津田 建二 『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』(PHP研究所) ■ エヌビディアの売上高が126%伸びた要因 ──著書『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』では2016年、ゲーム用GPUの設計から「AIの企業」へと大きくかじを切ったことに触れています。40年にわたり半導体業界を取材してきた津田さんは、同社が急成長を遂げた要因は何だと捉えていますか。 津田建二氏(以下敬称略) エヌビディアは、2023会計年度では269.7億ドル(約4兆円)だった売上額が、2024会計年度では609.2億ドル(約9.4兆円)になり、実に126%も伸びています。 電子部品・半導体業界で売上高が急拡大するタイミングというと、他社を買収するケースが一般的です。しかし、エヌビディアの場合は企業買収ではなく、自社の事業のみで急成長を遂げました。これは他社には見られない、例外中の例外だと思います。 この急成長の要因は、やはり生成AIでしょう。2022年秋にOpenAIが「ChatGPT」を開発・発表しました。無料で使える生成AIということもありユーザーが殺到した結果、エヌビディアのGPUが売れに売れたという背景があります。 ──OpenAIのような生成AIの開発企業による需要増大が、エヌビディアの成長を支えたということでしょうか。 津田 そのとおりです。AIにシフトする前のエヌビディアは、ゲーム用のチップであるGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を作る企業でした。 1993年に現CEOのジェンスン・フアン氏、クリス・マラコウスキー氏、カーティス・プリエム氏の3名が、シリコンバレーのデニーズで「写実的なグラフィックを高速に描くチップ」について議論していたことが、エヌビディアの始まりでした。そして、写実的なグラフィックを描くために、数学的な知識を取り入れながら開発したのが、同社のゲーム用GPUです。 その後、「AlexNet(アレックスネット)」と呼ばれるニューラルネットワークが登場します。これはノーベル物理学賞を受賞したトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授が設計したもので、そのときのAIにエヌビディアのGPUと、制御ソフト「CUDA(クーダ)」が使われました。 AIはさまざまな形で発展を続けますが、同時にエヌビディアも「自社のGPUはAIにも使える」と自信を持ち、2016年にはAIを事業の中軸に据えると宣言しました。