犯罪心理学者も厳選! 冷や汗がヤバい「シリアルキラー映画」6本
【5本目】「学生には薦めない」ほどの刺激物 ★桐生さん厳選!!!『アングスト/不安』(1983年) 【あらすじ】ジャケットにシャツ姿で道路を歩く、一見平凡な青年。しかし、彼の手元には銃が握られ、目つきもどこか異様。彼はある屋敷の呼び鈴を鳴らし、出てきた老人を躊躇なく撃ち殺す。その数年後、刑務所から出所した青年は、さらに見境のない行動を始める...... Blu-ray:2750円(税込) DVD:2090円(税込)発売元・販売元:キングレコード 桐生 『アングスト/不安』は、不安、恐怖をこれでもかと湧き上がらせる映画です。人が人を殺すときの心理状態を映像でうまく表現しています。俯瞰(ふかん)して撮ったり、犯人がカメラを持ちながら撮っているような映像もあったり、カメラアングルがどんどん変わって緩急があります。 そして、殺し方がめちゃくちゃ生々しくて、この監督はひょっとして殺人場面をじかに見たことがあるんじゃないかと思うほどでした。殺人現場には独特の空気感があります。本作は映像だけで、血のにおい、叫んでる人の口臭、体臭まで描かれているような感じがするんですよ。触発されちゃうと嫌なので、学生には薦めない映画です。 高橋 かなり好きな作品です。主人公が思い上がってる割にアホ、という点は『ハウス・ジャック・ビルト』と共通していますよね。本作も死体が重くて運べなかったり、うまくいかないことの連続です。殺人と後処理だけにフォーカスして、それを主観的に描いた、まさに「殺人映画」としか言いようのない作品です。 この規模の映画ではなかなかお目にかかれない高価なクレーンを使ったり、俳優の体にカメラを固定する特殊な機材を使ったりと、面白い映像やカメラワークもたくさん入っていて楽しめます。
【6本目】映画好きほど恐怖を感じる!? ★ヨシキさん厳選!!!『フェイドTOブラック』(1980年)【あらすじ】大の映画好きである青年エリックは、映画フィルムの保管倉庫に勤めている。しかし、同居中の叔母からは口やかましく叱られ、同僚からもばかにされ、孤独な日々を過ごしていた。ある出来事をきっかけにエリックは自分を映画の登場人物と同一視し、映画の有名シーンをまねて殺人を犯し始める...... 高橋 最後は『フェイドTOブラック』です。主人公は「超」のつくほどの映画マニアで、彼の感情は映画の引用で表現されます。例えば叔母さんにガミガミ言われて、顔にグレープフルーツを押しつけるところを妄想する場面がありますが、これは『ジェームズ・キャグニーの 民衆の敵』という映画ですよね。 ラストで主人公は警察に囲まれて映画館の屋上から転落しますが、もちろんそれは『キング・コング』です。映画だけの人生を送った青年が、映画を再現した形で殺人を繰り返す、そのさまが映画になっているというメタ構造になっているわけです。 桐生 なるほど、殺人者を「演じる」ということですね。私たちは殺人に限らず、人に会うときは誰しも誰かを演じるほうが楽ですよね。性格には「キャラクター」と「パーソナリティ」という分類があります。キャラクターはギリシャ語で「刻み込む」という意味で、その人がもともと持っているもの。 一方のパーソナリティは、ラテン語の「仮面」が由来で、他人に対してかぶる仮面のようなもの。殺人は対人関係の軋轢(あつれき)を解消するための究極的な方法ですが、それを行なうときにいろんな殺人者を演じる=仮面をかぶるというのは、腑に落ちます。日本ではソフトが廃盤で、配信もされていないようですが、なぜ評判にならなかったんでしょう? 高橋 僕はこの映画を中学1年のときに見ましたが、日本でもアメリカでもあまり当たりませんでした。今はちょっとカルト的な人気があります。 監督のバーノン・ジマーマンは大学で映画を教えている人で、だから実はかなりパーソナルな作品なのかもしれません。映画マニアの「あるある」が満載で、映画好きの人はきっと身につまされる一本ではないでしょうか。 * その道のプロが選ぶ「シリアルキラー映画」厳選6本、いかがだっただろうか。くれぐれも触発されないよう注意して、肝を冷やして残暑を乗り切ろう! ●桐生正幸(Masayuki KIRIU) 東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。山形県警察の科学捜査研究所(科捜研)で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。著書に『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)など ●高橋ヨシキ(Yoshiki TAKAHASHI) 映画評論家、アートディレクター、デザイナー、チャーチ・オブ・サタン公認サタニスト。著書に『悪魔が憐れむ歌――暗黒映画入門』(ちくま文庫)、『ヘンテコ映画レビュー』(スモール出版)など。本誌で『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』を連載中 構成/仲宇佐ゆり イラスト/ぱいせん