知られざる建築都市、ドイツ・デュッセルドルフの名建築を訪ねて。
高層ビルの隣には、1969年に竣工したバウハウス様式を思わせる劇場〈Schauspielhaus〉があり、2020年に竣工したショッピングセンター〈Kö Bogen II〉のファサードには大胆な植栽が施されている。3万株の木が植えられており、これはヨーロッパで最大の規模だという。 設計はコンペティションで勝った地元デュッセルドルフを拠点とするクリストフ・インゲンホーフェンで、彼は〈虎ノ門ヒルズ〉ビジネスタワーとレジデンシャルタワーの設計でも知られている。このビルと地下で繋がる隣のビルはダニエル・リベスキンドによる同系列のショッピングセンター〈Kö Bogen I〉で、このビルから市の中心部をエクステンションする形でこの地区のリデザインが始まっている。
デュッセルドルフはヨーロッパの中ではパリやヴェネチアにように古い街並みはほとんど残っていないものの、60年代や70年代の建物を生かしつつ、それと調和する新しさを加えていく街づくりがされている。共に戦後に復興した日本だが、スクラップ&ビルドで古いものを壊し、すべて新しくしてしまう街づくりとは考え方の根本が違う。 この付近には高級ブランドが建ち並ぶ有名なショッピングストリート〈ケニヒスアレー〉があるが、そこに架かるサンティアゴ・カラトラバ設計のアーケード〈Caratlava-Boulevard〉の建設が予定されており、その通り沿いにあるHSBC銀行の本社ビルだった建物をデイヴィッド・チッパーフィールドが増改築するプロジェクト〈Trinkaus Karree〉も進行中だ。どちらも既存の建造物を生かしつつ、機能や景観をアップグレードするもので、デュッセルドルフがますます魅力的になるのを後押しするだろう。
建築とアート、自然の融合。
デュッセルドルフに来たら、ぜひ郊外にも足を伸ばしてみてほしい。街の中心地から車を30分ほど走らせた一見何もない田園地帯に、建築とアート、自然を融合させた壮大なテーマパークのような〈インゼル・ホンブロイヒ美術館〉が出現する。1987年にオープンしたこの美術館は、不動産業者でアートコレクターのカール=ハインリヒ・ミュラーが、自身のコレクションを展示する目的で21ヘクタールにも及ぶ土地を入手し、1人のアーティストに1つの展示空間を設けるべく、様々なパビリオンを建てたものだ。 ポール・セザンヌ、アンリ・マティス、レンブラント・ファン・レイン、アレクサンダー・カルダー、アルベルト・ジャコメッティ、イヴ・クライン、グスタフ・クリムト、ハンス・アルプ(ジャン・アルプ)、エドゥアルド・チリーダら西洋の有名作家による作品からアジアの古美術品まで幅広いコレクションが展示され、造形作家エルヴィン・ヘーリッヒによるパビリオン自体も1つの作品になっている。自然の中に点在する彫刻のような建築のようなパビリオンを、一つひとつ訪ね歩くのは特別な体験だ。