戦時の満州で創作に目覚めた20歳の女性は、米軍統治下の故郷奄美から本土へ密航 波乱に満ちた1世紀の人生を経てなお「自分の思いを後世に残したい」と意欲を燃やす
鹿児島県伊仙町木之香の廣島員代(かずよ)さんは、100歳を超えた今も小説や短歌、新民謡の歌詞など幅広い創作活動に励む。旧満州で戦時中を過ごし、戦後米軍の施政権下に置かれていた奄美群島から本土に密航して美容師になるなど波乱万丈の人生を歩んできた。「自分の思いを後世に残し、お世話になった恩返しをしたい」と語る。 【写真】〈別カット〉作品集「結の花」を手に笑う廣島員代さん=伊仙町木之香
1924(大正13)年2月、同町木之香生まれ。太平洋戦争中の44(昭和19)年、20歳で満州へ渡った。短歌を詠む職場の女性に影響され、創作を始めた。敗戦で生活が一変。ソ連の侵攻で外出できなかった日々を「読書の習慣が付いた」と前向きに捉える。 46年末、命からがら故郷に引き揚げた。当時は米軍施政権下。貧しく、芋や黒糖を旧名瀬市まで船で売りに行った。そこで美容室を目にし、「これだ」とひらめく。美容師を目指し50年、26歳で本土へ密航した。 兄がいた鹿児島市を拠点に修業を積んだ。53年、奄美群島が日本に復帰し、「晴れて国籍をもらい、美容師免許を取得できた」。いったん島に戻り、「もっと勉強がしたい」と30歳で大阪へ。美容室を営む傍ら詩を習った。 夫と死別し、97年に73歳で帰郷。地元の短歌会や川柳会、奄美市の文章教室に入った。81歳で作品集「結(ゆい)の花」を2005年に出版した。思いつくままペンを取り、まだまだ書きたいテーマがある。「お迎えが来ても、もう少し頑張ろうかな」と笑った。
南日本新聞 | 鹿児島