世界の大金持ちが夢中になる、プロスポーツチーム買収の世界とは?
ライアン・レイノルズ、デヴィッド・ベッカム、そして(おそらく)ジェフ・ベゾス……。今、世界の大富豪たちの間で最もホットな娯楽となっているのが、スポーツチームの買収だ。 US版『GQ』は、新旧のオーナーやブローカーたちにその“プレイの仕方”を訊いた。 【写真をみる】デヴィッド・ベッカムやドウェイン・ジョンソンらもスポーツチームのオーナーだ。
ナショナルホッケーリーグ(NHL)の今シーズン初め、試合開始時間を間近に控えたワシントンDCでは、赤いパーカーに身を包んだテッド・レオンシスが、ダウンタウンに所有するスポーツアリーナを一周していた。68歳の彼は、エレベーターの床にポップコーンが落ちているのを見つけると、清掃員を呼んだ。ワシントン・キャピタルズの試合を観ようと何千人ものホッケーファンが押し寄せるなか、レオンシスは回転式の入り口付近に立ち、安い席のほうへ階段を上っていく途中で目に留まった子どもたちに、数千ドルの価値があるリンクサイドのチケットを配っていた。 アリーナが埋まっていく間、誰もがすぐにわかるわけではないが、自分たちのチームのオーナーだと気づいた人が、レオンシスの腕を軽くたたいて挨拶したり、近寄ってきては「テッドだ!」と、暖炉のそばでサンタに出くわしたかのように口走ったりしていた。外向的で親しみやすいレオンシスは、白髪に赤ら顔のおじいちゃんで、大きくはないが高い声で話す。その声は、スポーツチームのオーナーでいることの驚きと不条理さについて話すとき、しばしば、くっくっという笑い声に変わる。 レオンシスはスポーツチームを手に入れるのが好きだ。キャピタルズだけでなく、プロバスケットボール協会(NBA)のワシントン・ウィザーズと女子プロバスケットボール協会(WNBA)のワシントン・ミスティクスのオーナーでもある。「試合が終わって帰るときにみんなこう思うんですよ」と彼は言った。「たまんないね! 俺もスポーツチームのオーナーになりたいものだって」 ここ最近、超がつく大富豪たちは、こうした「たまんないね!」という瞬間を何度も味わっている。2020年代に入ってから、風変わりで窮屈なスポーツチーム市場に金が流れ込むようになった。しかも想像をはるかに超える大金持ちで、AOLの元副会長であるレオンシス(私が携帯電話に入れている忌々しい資産追跡アプリによると、この記事を書いている時点で、世界で1355番目に金持ちだという)のようなオーナーは、今後彼の仲間となる人たちと比べると、そこまで金持ちに見えなくなるくらいだ。 ウォルマートの創業家ウォルトン一族が率いるグループは最近、ナショナルフットボールリーグ(NFL)のデンバー・ブロンコスを46億5000万ドルで買収した。ジェフ・ベゾスはブロンコスのライバルのいずれかのチームを狙っていると言われており、そうなればほぼ間違いなく、さらに高額を出すことになるだろう。NBAのフェニックス・サンズが2022年に売りに出されたとき、噂されていた入札者たちは、ラリー・エリソン、ローレン・パウエル・ジョブズ、ピーター・ティールといった“ビリオネア大学”の卒業生ばかりだった。NHLのオタワ・セネターズは最近、俳優のライアン・レイノルズを含む入札者たちが競り合い白熱したオークションで落札され、最終的な落札価格は9億5000万ドルだった。 私がレオンシスに会った夜、世界中のスポーツ界で最も愛されているフランチャイズの1つ、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドFCが、ニューヨークのマーチャントバンクを通じて売りに出されていた。カタールの首長が、売り手であるグレイザー家(タンパベイ・バッカニアーズのオーナーでもある)に10億ドルの買値を提示したとも言われていた。最近、銀行家や弁護士たちがこぞって“個人富裕層”と呼ぶ人たちが、ボードゲーム「モノポリー」の土地のようにチームを買い集めており、オークションにはプライベート・エクイティも関与している。それだけでなく、セレブや企業、国までも。 ここ2~3年、欧州サッカー界の至宝であるチェルシーFCとACミランは、少なくとも部分的にはアメリカのプライベート・エクイティ企業のものになった。イギリスの名門F1チーム、マクラーレンはバーレーンの王室が手に入れた。アメフト選手のパトリック・マホームズもF1チームの共同オーナーだし、バスケ選手のレブロン・ジェームズはレッドソックスに出資する1人だ。元アメフト選手のトム・ブレイディはピックルボール(テニスと卓球とバドミントンを掛け合わせたようなスポーツ)のプロリーグに投資している。 こうした盛り上がりのなか、私は最近3カ国4都市を訪れ、新旧のオーナーや、ブローカー、銀行家、弁護士、それにあらゆる契約を嗅ぎつけ、売りに出ているチームの株を買い手に紹介する“マッチメーカー”に話を聞いた。最初に会ったのがレオンシスだった。彼はよく、1999年にワシントン・キャピタルズの株をタダで買ったと冗談を言っていた。資金調達のために売った株(ピーク時のAOL株)の価値がその後急落したからだ。レオンシスは、インターネット第1世代のIT幹部からスポーツチームオーナーに転身できるとなったとき、値切り交渉すらしなかった。威勢よく「オーケー!」と言って、希望価格の8500万ドルを出したのだ。 当時のことを彼はこう振り返る。「チームは帆を張った船みたいでした。風が吹くから、自分はただ後ろのほうに座って日光浴をしているだけという感じでしたね」。長い間、多くのチームのオーナーは、裕福な一族、成功した起業家、地元の競争相手を一掃したコンビニ経営の実業家などで、地域に密着していた。レオンシスの世代は、世紀の変わり目にそうしたぬくぬくとした、庶民的なオーナーたちの輪をぶち壊したのだ。リーグのミーティングに出るたびに、「クラスで一番の年下の子」のような気分だった、とレオンシスは言う。 それから25年後、今ではベテランオーナーとなったが、さらに新しい世代が到来しようとしていて、今度はレオンシス自身が混乱に直面している。石油化学やテックブー ムで財を成したデカビリオネア(通常、純資産が100億ドルを超える人を指す)や王族、アスリートや俳優などがその世代で、コンサルタントとして雇った“私兵”たちを指揮している。レオンシスがキャピタルズを買収してから、チームの価値は約17倍に膨れ上がり、推定14億ドルに達した。これだけの値が付けば、買収の流れも変わって当然だ。「何もかもが違います」とレオンシスは言う。「ミーティングの流れや裏での交渉、交渉に参加するための費用も」。レオンシスは今後の動向について、私と同じくらい興味津々だった。 アリーナのコンコースで腕時計を確認すると、レオンシスは急ぎ足のファンの間を縫ってボックスシートに向かった。私たちは少しの間そこで観戦してから、シェフがステーキを用意し、テーブルに美しいクロスがかかっているレオンシス専用のダイニングルームに移動して試合の続きを観た。 キャピタルズのスター選手、アレクサンドル・オベチキンは、レオンシスのためにプレイする19シーズン目を迎えていた。オベチキンを養子のようにかわいがっているレオンシスは、彼がペナルティショットを与えられると、ナイフとフォークを置いて見守った。だが、ゴールキーパーが阻止。レオンシスはがっくりと頭を下げた。その後、キャピタルズがゴールを決め、アリーナのDJがチャンバワンバの曲をかけた──「打ちのめされても/また立ち上がってやる」。するとレオンシスはすぐに機嫌を直した。 私たちが第3ピリオドの最初を観逃したのは、レオンシスが通りにあるブックメーカー(賭け屋)のところに行きたがったからだ。そこで彼は、ベッティング端末やくしゃくしゃにされた紙切れにまみれながら、ギャンブラーたちに「がっかりするな」と言って回っていた。 レオンシスがNBAのワシントン・ウィザーズのオーナーを務めるのと同じくらい長く、ダラス・マーベリックスのオーナーをしているマーク・キューバンは、スポーツチームの買収がどれほど面白いかを語ってくれた。「人生が変わります。アップルやグーグルのためにパレードをする人はいないですが、チームが優勝すれば山車に乗れるし、地元ではどこに行っても歓迎されますから」。最近、キューバンはマーベリックスの株の過半数を35億ドルの評価額で売却することに合意した──しかもチームの経営権を放棄することなく! つまり、バスケットボールに関する決定権を放棄せずに、当初投じた2億8500万ドルに対して1100%以上のリターンを得ることができたということだ。 レオンシスは、金以上の面白さがあるという考えに大筋で同意し、オーナーを務めるキャピタルズが2018年にスタンレー・カップで優勝したときのことを、嬉しそうに振り返った。ワシントンはチームカラーの赤を着た人々で溢れかえったという。「自分が住む街の重鎮になれるんですよ」と彼は言った。「コミュニティの心を意のままにできますしね」。明らかに、これは魅力のひとつだ。少なくともレオンシスのような外向的な人間にとっては。なにしろ、ふらりと場内を歩き回っては、アップグレードチケットを配り、スポーツという名の街の市長になったような気分になれるのだから。 気づくと私はこう考えていた。たまらないね! 2020年代にスポーツチームのオーナーになるにはどうすればいいんだろう? そもそも何からはじめて、何をすればいい? と。仮に私がスポーツ賭博でオベチキンのペナルティショットにとんでもない金額を賭け、見事パックがゴールネットに入ったとしよう。そして、ジェフ・ベゾスやラリー・エリソン、ローレン・パウエル・ジョブズのように、あっという間にデカビリオネアになったとしよう。すると私はアスリートや王族、ウォール街の男たちと同様に、チームの所有権取得争いに参加したいと思うようになる。では、まず誰に相談すればいい? レオンシスは何人かの銀行家や銀行の名前を挙げた。それから、マンハッタンにいるサル・ガラティオトという銀行家の話になった。レオンシスいわく、彼はよく知られているスポーツチームのブローカーで、「古風な男で信用できる」そうだ。「彼は仕事が早いしね」とレオンシスは付け加えた。ガラティオトは、前述した白熱したオタワ・セネターズのオークションを仕切っていた人物だった。翌朝、私はアムトラックに乗ってニューヨークへ向かった。 ■まさにコレクターズアイテム だんだん、スポーツチームを買いたくなってきただろうか? マディソン・アヴェニューと43丁目の間に立 つ超高層ビル、22ヴァンダービルトの上層階に到着すると、迷路のようなガラティオトのオフィスがある。71歳のガラティオトは、表情豊かなベビーフェイスで、辛辣で、ステージ4のがんのサバイバーでもある。自身の投資銀行、ガラティオト・スポーツ・パートナーズの代表として、スポーツチームの売買だけを手がけている。それが生きがいなのだ。数年前、ガラティオトはサクラメント・キングスに関する契約の動きがないかどうかを探っていた。そのとき、初めて首にしこりを感じた。がんという診断が下ったが、シカゴ・カブスの契約に間に合うように復帰したいという強い思いで、過酷な治療を乗り切った。「この仕事が大好きでね」とガラティオトは肩をすくめて言った。 彼が数えたところによると、2010年のゴール デンステート・ウォリアーズのオークションを含め、これまで126件の取引に関わってきた。当時、このバスケチームには4億5000万ドルの値がついたが、現在なら70億ドルはくだらないだろう。『Forbes』やスポーツ・ビジネス・サイト『Sportico』を見れば、誰でもチームの評価額がわかる。なかでもダラス・カウボ ーイズは90億ドル以上の価値があり、NFL、NBA、MLB、NHLのなかで最も高く評価されているフランチャイズだ。それに比べ、NHLのアリゾナ・コヨーテズは、『Sportico』のリストでは最下位の6億7500万ドルで、アメリカのメジャースポーツチームで最も価値が低い。NFLのなかで最も安いのはシンシナティ・ベンガルズだが、それでも40億ドルの価値があるとされ、その額はNBAとMLBの数チームを除くすべてのチームと同じかそれ以上で、NHLのどのチームよりも高い。 これまでガラティオトは、他の人たちと同じように、そうした数字が跳ね上がるのを見てきたのだ。目を見開きながら。「私がこの仕事をはじめた1990年代は、小さなビジネスでした。みんなただ楽しいからという理由で、チームを買っていました。でも、金持ちだったとしても、何者なのか知られているわけではないし、どうしたら差が付けられるだろうって考えるわけで す。『友達はみんな、プライベートジェットや船は持っているけど、誰もスポーツチームは持っていない。新聞に枠が設けられて、連日報じられるようなものを持っている人は誰もいない』って。注目を買っていたんですよ」 娯楽の選択肢がますます細分化され、スポーツの生放送が最後に残った唯一の「決まった時間に見る娯楽」のように思える時代に、リーグの放映権の値段は、相手が従来の放送局でも、新しいストリーミング・プラットフォームでも同じように高騰した。スポーツ業界を外から見ていた人たちは、景気後退、戦争、テクノロジーの進化、パンデミックなど、いかなる状況であろうとも、オークションが行われるたびにメジャースポーツチームの価格が高騰し続けていることに気づきはじめていた。情報通の関係者が未だに解せないのは、ウォール街がスポーツチームを投資可能な資産クラスとして見るようになるまでに、数十年を要したということだ。ある銀行幹部は、最近のチーム買収への熱狂的な関心の高さは、驚くことではないと語ったが、最後にこう付け加えた。「みなさんが今になってようやく気づいたというのは、我々にとってはある種の驚きでした」 ガラティオトは、「これほどの需要は見たことがありません。鬱積した欲求がすごい」と言う。そして、価値を押し上げているのは希少性だと指摘した。不動産市場(「足りなくなったら、また建てればいい」)やテック企業(「いくらでもあ る」)とは異なり、スポーツチームに関しては、需要が供給を大きく上回っている。MLBとNBAはそれぞれ30チーム、NFLとNHLはそれぞれ32チームしかない。MLSとWNBAを含めても、165しか資産が流通していないのだ。今この瞬間にも、2600人を超える世界的な億万長者たちが、一点もののトロフィーを探して世界中を嗅ぎ回っているというのに。シドリーオースティン法律事務所の弁護士で、スポーツ買収を専門とするチャールズ・ベイカーは、希少性についてこう言っていた。「一番大きな船、一番大きな家、一番大きなジェット機を持っていても、ヤンキースやカウボーイズは1つしかありません。まさにコレクターズアイテムなのです」 ガラティオトのオフィスを訪れる人々には、どちらかといえば、これまでとは違う裕福さがあるという。「たとえ金持ちだとしても、十分な金持ちではないかもしれません」とガラティオトは言った。「5億ドル持っている人に、それでは買えないと伝えるのは非常につらいことです。5億ドルある人は、それを聞いていい気持ちにはなりませんから」。もちろん、5億ドルを持つ人々にも買えるものもある。チームの少数株(5%だったり、10%だったりする)は、リミテッド・パートナーシップ取引と呼ばれるもので、公の場で騒がれることなく取引されることが多い。「1億ドル、2億ドル、3億ドルのスポーツフランチャイズチームを買っても、新聞には取り上げられないでしょうね」とガラティオトは言う。 ガラティオトに買うだけの財力があると認められたら、次は現実的な話へと移っていく。ガラティオトはアシスタントに中華料理のテイクアウトを取りに行かせ、あなたはマンハッタンが一望できる大きなガラス窓近くの椅子を勧められるかもしれない。この過程では、話題の中心が地図やジェット機や理想的な就寝時間になるため、学生時代に戻ったように楽しめるはずだ。「お望みは東海岸ですか、それとも西海岸?」。ガラティオトは見込んだ買い手に尋ねるだろう。鉛筆が出てくるかもしれない。ある関係者はこう言っていた。「飛行経路を調べるんです。地図にコンパスで円を描いて考えるんですよ。『(邸宅の1つから)プライベートジェットで、1時間以内で行けるか?』って。1時間以内というのがおおよその限界ですね。試合中は3時間座っていることになりますが、終わったら、家に帰りたいですから」 スポーツチーム買収の世界は、孤立していて、噂話にあふれ、狭い。関係者は、深夜12時半までに枕に頭を埋められさえすれば、ミズーリでも火星でもどこのチームでも買う準備をしているオーナーがいると、ジョークを言った。時に、買い手はさらに航空マイルをつぎ込むことも厭わない。数年前、私はUS版『GQ』に俳優のライアン・レイノルズとロブ・マケルヘニーが買収したウェールズの小さなサッカーチーム、レクサムAFCについての記事を書いた。ロサンゼルスに住んでいるマケルヘニーは、自分のチームの試合をインターネット配信で見るために夜明け前に起きなければならないと言っていた。彼は子どもの頃からフィラデルフィア・イーグルスのファンで、一方レイノルズは、バンクーバーでBCライオンズを応援していた。つまり、手に入れられるものを買うということだ。マケルヘニーの友人が、「フットボールマネージャー」というゲームを通じて好きになったチームのリストを作って考慮した結果、2人はレクサムに決めた。 ガラティオトに買収の相談を持ちかけたら、彼はあなたが目をつけているのは推しチームなのかどうかを知りたがるだろう。「もしそれが、今まで好きになった唯一のチームで、買えるチャンスがあるのなら、オークションで落札しようとより尽力するはずです」と彼は言った。 オークションはほとんどの場合、避けられない。2019年、カンザスシティ・ロイヤルズを退任したオーナーは、入札を募らずに、彼が尊敬するという地元の実業家に球団を売却した。NBAのユタ・ジャズも前回、同じようなやり取りを経て、オーナーが変わった。レオンシスは、前オーナーが同じシナゴーグに通う人物への売却を検討したため、ワシントンで所有するチー ムの1つをあやうく手に入れられないところだったと言っていた。しかし、たいていのチームは、最も高く買ってくれる人のものになる。インナー・サークル・スポーツという投資銀行の創設者で、レイノルズとマケルヘニーのレクサム買収を手助けしたロブ・ティリスは、オークションが好まれる理由をこう説明した。「最高価格を叩き出すためです」 ガラティオトと同様に、ティリスもスポーツチームの買収希望者と頻繁に会っている。その際、彼は必ずこう尋ねるという。投資テーマは何ですか? 目標は? リスクや危険について理解していますか? また、直接伝えるわけではないが、自分が代理人を務める入札者には、オークションがどれだけ盛り上がろうとも、自制し、規律を守ってもらいたいと思っている。裕福なクライアントたちに、こうほのめかすのだそうだ。多額の富を持つようになった頃の、金に対する慎重さを忘れないようにと。「クライアントには私たちが予測するチームの取引価格を伝えています」とティリスは言う。「もちろん、それ以上の金額を払うことはできますが、クライアント次第ですね」。ガラティオトはこうした偽善的なやり方に我慢がならないようだ。「いいですか」と彼は言った。「自分の好きなチームが売りに出されて、それを逃したとしますよね? それが、買えるとわかっていたのに、ただそれ以上払いたくなかったからという理由だったとしたら? そうなれば、かなり動揺するでしょうね。そんなことはあってはならないと思っています」 有名なチーム、東海岸のチーム、ニューヨークやコネチカットやフロリダからプライベートジェットで1時間のところのチーム......こうしたチ ームは市場に出ると、空を駆け抜ける彗星のようになる。タイミングを間違えれば、瞬きしている合間に、また20年待たされることになるかもしれないからだ。ガラティオトはこう尋ねるだろう。「余分に払ってもいいという心づもりはありますか?」と。オーナーシップというエコシステムのなかでは、「あと5000万ドル出せない賢さがある」と噂される買い手がいる。規律正しく、従来の本質的価値に縛られている買い手のことで、要は「賢くない」ということだ。噂によると、ラリー・エリソンがNBAのオーナーになろうとしたとき、あと5000万ドル多く提示していれば、何年も前にゴールデンステート・ウォリアーズの入札で勝てていたかもしれないという。 オーナー候補としては、こうした売買で繰り返し雇われている銀行家や弁護士の集団意識の中に入り込みたいところだ。アレン&カンパニー、レイン・グループ、ガラティオト・スポーツ・パートナーズ、シドリーオースティン、プロスカウアー・ローズ、レイサム アンド ワトキンス──もしチャンスをもらいたいのなら、こうした組織のご機嫌取りはしておきたい。リーグのコミッショナーや他のオーナーたちからもよく思われておく必要がある。 たまに、オーナーが個人的な揉め事を起こし、あからさまに、あるいは暗黙のうちに追放されたことで、チームが市場に出てくることもある。2017年のカロライナ・パンサーズがそうで、当時のオーナー、ジェリー・リチャードソンは、さまざまな不正行為の疑惑をかけられたことをきっかけに、チームの売却を発表した。さらに2022年、当時フェニックス・サンズのオーナーだったロバート・サーバーに不正疑惑が持ち上がったときにも同じことが起きた。ブローカー幹部たちは、そうした出来事を見逃さない。オーナー任期を終了させるくらいのスキャンダルを報じるテロップが、テレビ画面に流れてくるかもしれない。コートサイドやリンクサイド、ガラス張りの特別観覧席で、むっつりと落胆した表情のオーナーの姿が写真に撮られるかもしれない。そんなことがあれば、熱心なブローカーなら、背筋を伸ばして座りなおし、頭の中でさっそくマッチメイキングをはじめることだろう。「今この瞬間にも、我々のデータベースには、特定のチームに非常に高い興味を示しているクライアントがいます」とガランティオトは言う。「万が一、そうしたチームが市場に出てくることがあれば、すぐに彼らに連絡しろ、と指示しますね」 携帯電話のメッセージが飛び交い、電話が鳴り続ける。回りくどい表現が使われ、なんとなくけしかけられるが、何も約束されない。「○○は進行中......○○は見ているだけか......○○は興味を示しているの? そうこなくっちゃ」。そうして期待を胸に、関係者たちは秘密保持契約書にサインしはじめる。もうすぐオークションの時間だ。