<掛布雅之が語る>まだまだ巨人有利 好投したマー君に楽天打線は応えられるか
笑顔を封印したエース田中将大
楽天の田中将大投手は、完投勝利で1勝1敗のタイに戻したというのに一度として笑わなかった。まるで鉄の表情だった。開幕でなく第2戦に回ったことで絶対に負けられないというプレッシャーがあったのだろう。ヒーローインタビューでは「完封したかった」と語っていたので、2点目をもらった直後に寺内に許した不用意な1球を悔やんだのかもしれない。だが、私には、「シリーズでひとつ勝ったくらいで意味はない。もう一つ勝たないと日本一にはなれないのだ」という彼の強い決意の表れに映った。 星野監督が試合後に語った「ホッとした」という気持ちは、おそらく楽天ナインの共通心理だったと思う。だが、チームのエースは、その安堵感を胸にしまいこんだ。第6戦、第7戦でのストッパー登板を経て、悲願の日本一を手にしたときに初めてマー君は最高の笑顔を見せるのだろう。そして彼の厳しい表情は、東京ドームに乗り込んで先発する投手への「もう一度、仙台で俺に投げさせてくれ!」というメッセージのバトンだったとも思う。
巨人打線を沈黙させたイニングマネジメント
マー君のスプリットは高度なレベルにあるボールだった。本来落ちるボールというのは「どうぞ振って下さい」と打者の意志に依存するボールである。だが、マー君のそれは、打者依存ではなく投手主導型。落とす位置まで精密にコントロールされていてベースの横幅の中でぶれるボールがほとんどない。 ストレートと同じ腕の振りで、リリースポイントもほとんど違わない。本来は、その2つのボールを見極める壁というものが、18.44メートルの間には存在するのだが、マー君のスプリットには、その見極めの壁がないのだ。スプリットの選球を打者に徹底させようとしても苦労するだろう。 またマー君は、巨人打線を9人というトータルのスケールで考えて攻略した。シチュエーション次第では無理に阿部、高橋、村田らとも勝負はしない。マー君は、走者を置いたときと、そうでない時の平均球速が違うそうだが、結果的に「点を取られないためにはどうすればいいか」というトータルでのイニングマネジメント力が素晴らしいのである。