試験に落ちる、病気で倒れる…望み通りではなくても、人生を楽しむ考え方。まずは役に立つ、役に立たない、という発想から自由になる
文部科学省が発表した「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」によると、約6割が1ヵ月間で1冊も本を読まないそう。「自分の人生で経験できることには限りがあり、読書によって他者の人生を追体験することから学べることは多い」と語るのは、哲学者の岸見一郎先生。今回は、岸見先生が古今東西の本と珠玉の言葉を紹介します。岸見先生いわく、「どんなことも楽しむためには真剣でないといけない」そうで――。 【書影】古今東西の本と珠玉の言葉を一挙に紹介。岸見一郎『悩める時の百冊百話-人生を救うあのセリフ、この思索』 * * * * * * * ◆それだけでかまわない 三食をつましく作って食って、近所を散歩して俳句作って、あとは家にある本とCDを消化するだけの人生で別にいいのだが。 (天野健太郎「はじめに」『風景と自由 天野健太郎句文集』) これは、台湾文学の翻訳者である天野健太郎の言葉である。 「つましく作って食って」、後は好きなことをする。「別にいい」のである。 そのような生き方をよしとしない人はいるかもしれないが働かないわけではない。贅沢しないで好きなことをして生きる。他にどんな人生を生きるというのか。 実際には天野はこれ「だけ」ではなく、翻訳者として多くの仕事をした。7年間に12作の翻訳を出版している。呉明益の『自転車泥棒』の翻訳が出版された5日後、天野は47歳で亡くなった。 旧約聖書の「コヘレトの言葉」には何事も、例えば、生まれるにも、死ぬにも「時」があって、人が苦労してみたところで何になろうとある。 たしかに、自分でいつどこでこの世に生まれるかを決めることはできないし、長生きしたいと思っても、いつどこでどのように死ぬかを決めるわけにはいかない。
◆喜び楽しんで一生を送る 聖書には続けてこう書いてある。 〈人間にとってもっとも幸福なのは 喜び楽しんで一生を送ることだ〉 プラトンも、正しい生き方とは一種の遊びを楽しみながら生きることであるといっている(『法律』)。 とはいえ、生きることは苦しい。苦しいことも、悲しいことも一度も経験しないで生きることはできない。人生は決して順風満帆ではなく、行く手を阻むことは度々起こる。 一生懸命勉強しても試験に合格せず、願っていた学校に入学できないことがある。思いがけず病気で倒れることもある。 それでも、そんな人生を楽しんで生きることはできる。