開園100年の植物園に未知の危機もたらす気候変動 「地球沸騰化の時代」100年後を信じ、深い森つくる
100年前の植物の専門家たちは、国連事務総長が「地球沸騰化」と警告する昨今の気候変動を想像しただろうか。京都府立植物園(京都市左京区)は1924(大正13)年に開園した日本最古の公立の総合植物園で、当時植えられた若い木々は森の一部となっている。その森に、草花に、異変が起きている。 【写真】アフリカの異常気象による「最悪のシナリオ」が現実に… 気候変動→資源減少→紛争増加 日本も他人事ではいられない
危機はこれまでもあった。自然災害や戦争から何度も立ち直ってきた植物園。現役スタッフは未知の事態にとまどいながらも歩みを止めず、今夏も日々の作業にいそしんでいた。100年後に森がさらに深くなっていることを信じて。(共同通信=米増大輔) ▽突然死する木々 植物園は京都市中心部にほど近く、甲子園球場が6個ほど入る24万平方メートルの敷地に1万2000種類、12万株の植物が植えられている。京都市は7月の平均気温が29・4度で、気象台が観測を始めた1880(明治13)年以来、2番目となり、8月は30・1度で3番目だった。猛暑日は7、8月で39回もあった。 8月8日、記者は、日照り続きで花まで水分を吸い上げる力をなくし、焼け焦げたように見えるヒマワリの群生を横目に、暑さで脚がつり、立ちくらみがしていた。 栽培と管理の担当スタッフは計30人。樹木係のリーダー、中井貞さん(54)がミカン科の落葉樹キハダの切り株をなぞった。直径43センチと35センチの2本。「太いのは樹齢70年ぐらいです。昨秋にはいつものように葉を落としたのにこの春、突然枯死しました。樹齢が50年超の木では見たことがありません」
サクラは数本がこの春芽吹かず、枯死したと判断され伐採された。 8月14日には、サクラが黄色くなった葉を次々と落とす様を見た。日照りで雨が少なく水分が足りないため、枯れないまでも光合成をやめてしまっているからだという。「ここ3、4年は夕立がめっきり減った」。中井さんの同僚が天を仰ぐ。 ▽毎年花開くソテツ、「狂い咲き」に「二度咲き」 1950~60年代に植えられたソテツの木も天候の熱帯化を物語る。鹿児島県などでは毎年花が咲くというが、京都では7~10年に一度だった。それが、最近の5年間は1年おきとなり、昨年、今年と2年連続で咲いた。 植物園は植物にまく井戸水を安定的に確保しようと、既存の100トンの貯水タンクに加え、5トンタンクを2基増やした。使用量はこの15年ほどで30~50%増えた。異変は、ボタンやシャクヤクの「狂い咲き」やハナミズキやヤマボウシの「二度咲き」など枚挙にいとまがない。これまでの栽培知識が通用しなくなり、スタッフの間で「分からない、分からない」が口ぐせのようになった。