開園100年の植物園に未知の危機もたらす気候変動 「地球沸騰化の時代」100年後を信じ、深い森つくる
▽喜びも悲しみも共にするボランティアたち 今年7月には、新たな危機が訪れた。サクラやウメなどバラ科の木を内部から食い荒らして枯らす特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」が京都府下で初めて京都市内で確認されたのだ。この昆虫は繁殖力が非常に強い。180品種500本のサクラが自慢の園に、これまでの食害の時以上の衝撃が走る。一本ずつ木を見回り、捕まえて殺すしかない。 植物園には今年で発足30年、約160人のメンバーが植物の標本づくりや除草などをサポートするボランティアグループ「なからぎの会」がある。メンバーから「すぐやらな、あかん」と声が上がった。園を5つのエリアに分け、来園時に持ち場をパトロールすると決めた。 8月19日、発足当初からのメンバーの青木籌子さん(80)が幹に目を凝らしていた。青木さんは50歳のころ「園に行く日は植物の名前を一つ覚えよう」とカードを作り始めた。スタッフも生態を親切に教えてくれた。木々がなぎ倒された台風の際の悲しみも共にしてきた。「ボランティアは黒子ですが、100年の植物園の活動に関わることは誇りです」。傘寿で闘っている。
▽「人が帰る森に」と番人1年生 同じ日、森の草花が記者にも分かるほどしおれていた。担当の市原裕子さん(54)が水やりのため小道を急ぎ、重そうな散水ホースをひきずって行く。ススキの株元でナンバンギセルがほとんど干からびていた。 来園者が見やすいようにと、垂れ下がるススキを持ち上げて束ねる毎年のルーティンが徒となり、“日傘”を失って直射日光にやられていた。「ショックです。天候のせいでもあり、私のせいでもあります」。予定の草刈りは後に回して水をまきまくった。 高校時代、生物部でルーペを片手に野山の植物を「1メートル進むのに1時間」かけて観察し、大学院でも樹木を研究した。5年ほど「なからぎの会」で活動し、今年4月から会計年度職員として週3、4日出勤している。気候変動について聞くと「環境に適応できる強い植物しか生き残れないのでしょうか」と複雑な表情を見せた。 若いころから、落葉樹や常緑樹、針葉樹が混在し、木漏れ日も差し込んで山野草が育つ日本の美しい森に魅せられた。園の森で一番好きな木はカツラだといい、カラメルに似た甘いにおいのする落ち葉をこすった。「訪れた人が『この場所に呼ばれて帰ってきたんだ』と深呼吸できるような森を、ここでずっと育んでいきたいです」。森の番人1年生はそう話し、仕事に戻る。