医療用器具が手に入らない?職人不足で“日本製”存続の危機も「来る人がいない」 必要な取り組みは
職人不足の背景には、「高齢化」「安価な輸入品の台頭(主にドイツ製やパキスタン製)」「術式の変化(低侵襲)」などがある。術式では、内視鏡下手術の増加でそもそも開腹する手術が減少したことや、従来は手術して初めてわかった病状が検査段階でわかるようになり、手術が減少したことが要因となっている。 技術の伝承について、「私の知識は教えるが、来る人がいない」のが現実だ。「毎日叩いて、いじることが大事。数字的に『何年で習得できる』ではなく、一度覚えればあっという間にできると思う」。また、「良い機械を買いたくてもなかなか手に入れられない」と、収入面にも課題があるようだ。 日本製の特徴は、仕上げ技術の良さ。“切れ味が良い”ことは、治癒の短期化で患者の負担減につながる。また、“手に馴染む”ことにより、術者の疲労低下にもなる。木村製作所の鉗子は5000円だが、海外製だと2500円。「(卸の)店を経由して、病院へは1万円で売られることも。病院が高い製品を買ってくれない場合もある」と明かした。
■職人不足解消に必要な取り組みは
職人不足解消に向けて、後継者を育成する取り組みも行われている。手術器具の販売を手がける「マイステック」代表取締役の金井しのぶ氏は、医師と職人が直接交流・情報交換できる場を、リアルとオンラインで創設した。 職人や独立を目指す人たちのために設立した工場は、工作機械を備えた作業場が利用できる(光熱費込み月6万円、時間貸しも可)ほか、受講者が指導料を支払うことでベテラン職人から学ぶこともできる。趣味や副業として始めたい人も歓迎。開設にあたっては、「同業組合の理事長が古い工場を提供してくださった。東京都のインキュベーション(施設運営計画認定)事業にも採択され、一部費用はそこで援助してもらっている」という。 金井氏は職人不足の弊害として、わずかな症例の手術に必要な特殊な器具の供給ができなくなることや、日本発の新たな術式の開発に必要な器具の試作ができなくなることなどをあげている。「理解してくれる医師はいるが、道具を買うのは個人ではなく病院」のため、職人の仕事ぶりや使い手のメッセージなどをコンテンツ化して、積極的にPRすることで、海外展開も狙っている。