被爆者がオスロの若者に証言 長崎の横山さん「心を寄せてほしい」 核なき未来へ「種」まき続ける
【オスロ=長崎新聞取材班】日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞から一夜明けた11日、被爆者たちはノルウェーの首都オスロの高校と大学を訪れ、被爆体験を証言した。8日からの滞在で帰国前の最終日、疲労の色を濃くしながらも、核被害の実相を伝える活動を止めることはなかった。すぐに世界が変わるわけではないけれど、若者に託したい-。核兵器のない未来に向けた「種」をまき続けた。 オスロ市立キューベン高の講堂には生徒約200人が集まった。被団協役員の濱住治郎さん(78)、中村国利さん(80)、横山照子さん(83)の3人が教室に姿を見せると、盛大な拍手が送られた。 長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)副会長の横山さんは、原稿を持たず家族の被爆体験を語った。通訳を交えて約25分間。半分以上を44歳で亡くなった妹律子さんの話に充てた。1歳で被爆し、喉の病気などで入院を繰り返した。15歳で小学校を卒業。中学は半年も通えず、人生の大半を病院で過ごした。「原爆は『あの日』だけでなく、人間の一生を駄目にすると知っていただきたい」 生徒の視線が注がれる中で、律子さんの写真を掲げた。高校での証言が決まってから、その世代に伝わる言葉をずっと考えてきた。「皆さんと同じ年頃の時の妹です。学校に行きたくても行けなかった。皆さんは自分が歩む道を自分で決めてほしい。戦争のない平和な世の中でしか、道は切り開けない」 そして、こう締めくくった。「体や心、希望を失わせる原爆は、この地球に1発もいらない。核兵器廃絶に心を寄せてほしい」 3人が講演を終えると、生徒から質問が上がった。ウクライナ侵攻で核の威嚇を続けるロシアと、国境を接するノルウェー。「世界の有力者にメッセージを送るなら、この深刻さをどう伝えますか?」。横山さんは、被団協が20年ほど前に全ての核保有国を訪れて核廃絶を求める要請活動をしたことがあるが、どこもトップは出てこなかったと紹介。「核保有国の市民の心や考えを変える必要があると思い、今まで交流を重ねてきた。今後も私たちは被爆の実相を伝えないといけない」と答えた。 その一つとして、長崎被災協が制作した被爆証言リーフレットを配った。被爆者が作った折り鶴を貼り付けている。笑顔で受け取ったイマン・アリ・ヌールさん(17)は「個人的な被爆体験を初めて聞くことができて、原爆が普通の市民にどんな影響を与えるのか、なぜ彼らがここに来たのかが理解できた」と語った。