「就職率100%」のエンジニア養成機関から甲子園へ! 近大高専(三重)が貫く“文武両道”
高等専門学校、略して“高専”――。工業や商船などの分野の実践的・創造的技術者を養成することを目的とした高等教育機関である。中学卒業で受験資格を得られる点は高校と同じだが、5年制だ。専門の技術者が養成されるため、求人倍率は高く、就職率はほぼ100%だという。 野球部がある学校も少なくなく、高専3年の夏までは高校野球の大会に出場している。しかし、これまで高専が甲子園に出場したことはない。 【動画】世代最速の強烈ブルペン!近大高専・吉留勇太が2年間で球速を爆上げできた理由 全国に58ある高専の中で最も甲子園に近い存在が、三重県名張市にある近大高専だ。 2019年秋には県大会で優勝して、翌春に開催予定だったセンバツの21世紀枠東海地区推薦校に選ばれている。昨秋も県大会で4位になっており、県で上位に顔を出すことも珍しくない。 過去には鬼屋敷 正人捕手(元巨人)や今年のドラフト候補である石伊 雄太捕手(日本生命)などが在籍。定期的に力のある選手を輩出しており、今年も最速155キロ右腕の吉留 勇太投手(3年)を擁する。 “高専初の甲子園”を狙う近大高専とはどんなチームなのだろうか。
エンジニア育成が目的、部員の48人中46人が県外生
午後4時前にグラウンドに到着すると、選手たちがノックを行っていた。学年やコースによって授業の終わる時間が違うため、先に来た選手から各自で自主練習をしているそうだ。16時になると全体練習が開始。アップ、キャッチボール、シートノック、シート打撃、フリー打撃……。普通の高校でも見られるような野球部の練習の光景がそこにはあった。 チームを率いるのは就任6年目の重阪俊英監督。上宮、近畿大でプレーし、大学の同期には藤田一也(現DeNA育成野手コーチ)がいた。大学卒業後は近畿大の職員となり、系列校での勤務を歴任。現在も職員として働きながら野球部の指導にあたっている。 近大高専の野球部の在り方について重阪監督はこう語ってくれた。 「学校はエンジニアの育成が目的です。野球部員も工業に興味を持ち、技術を習得することを目的に進学してくる子が多いですね。まずは勉強に力を入れてもらうことが高専生の本科です。あくまでも野球部は課外活動として、自分に付加価値をつけるためにやっていくのものだと思っています」 部員の割合は県外生が7割。三重県内でも名張市外からの選手は寮に入っており、48人中46人が寮生活を送っている。近畿地区のクラブチームから力のある選手が進んでくることもあるが、一般の高校よりも学業面で求められるハードルが高いため、ハイレベルで文武両道を実践する必要がある。 主将を務める三塁手の倉好 英徳内野手(3年)は学業との両立を図るために「メリハリという部分を意識しています」と話す。どちらも集中して取り組むことで学業、野球の両面で優れた成果を出している。 高専は5年制ということもあり、3年生の多くはそのまま4年生に進級。一部の生徒が近畿大などの4年生大学に編入する。都市環境コースの土木系に所属して、将来は建築関係の仕事を志望している倉好は4年生に進級、将来的にプロ入りを目指す吉留は4年制大学の進学をそれぞれ希望している。