銚子商との雨中の激闘は押し出しでサヨナラ負け 江川卓は不完全燃焼のまま高校野球を終えた控え投手を気遣った
岩井は、江川のようなピッチャーはいまだ現れていないと断言する。あの球を一度でも見たものは、その剛球が頭から離れないのだろう。 【江川はもう限界に達していた】 4番・キャッチャーの木川博史は、延長10回のシーンをしみじみと振り返る。 「この時は勝ったと思って、はめていたミットを放り投げてベンチを出ていったんです。そしたらアウトですよ。ミットは水たまりに沈んでしまって......二重のショックです。7回くらいから雨足が強くなって、バッターボックスに立っていてもヘルメットのひさしから水がポタポタと垂れてきて見づらいし、足場もグチャグチャ。大変でしたね」 この延長10回の奇跡的なビッグプレーで、キャッチャーの亀岡(旧姓・小倉)偉民は、勝利を確信したと思ったという。 「アウトになった瞬間、この試合は勝ったと思いました。完全に流れはウチに来たと。ただ雨によって、江川本来のピッチングができなったことは間違いない。ロジンも雨に濡れてカチカチでしたし。キャッチャーの私がまともに返球できないのに、それでも江川は投げていました。『なんで投げられるのだろう?』と不思議でしょうがなかったですね」 野球の神様は、この試合の決着を決めかねているかのように、ただただ大粒の雨を降らせていた。 じつは、7回に雨足が強くなった時、監督の山本が控え投手の大橋康延に「つくっとけ!」と指示が出た。いつも7回あたりから自発的にブルペンに行って肩をつくっており、この試合もそろそろ投げにいこうと思っていた矢先の出来事だっただけに、不意をつかれた感じだった。 「普段は『つくっとけ』なんて言わないのに。ひょっとしたら......と思いました」 夏の甲子園でもマウンドに立てると、一瞬、淡い希望を抱きかけたがすぐにかき消し、ブルペンに向かった。 「たしか『延長13回から行くぞ!』って言われた気がします。もう江川は限界に達していたんじゃないですかね。キレもなかったし、疲れもピークだったかもしれない」