裁判の傍聴席が満員「この人たちはどこから来たのか?」違和感から重ねた取材 地裁に通い続け、尾行、質問状、記者会見。粘り強く不祥事を明らかにした2か月半
目的を知るためには、正面から市教委に聞くほかない。取材方法を検討した末に、5月7日、質問状を市教委に送った。 15日夕、市教委教職員人事課長から口頭で「第三者の傍聴で被害児童・生徒の情報が拡散することを恐れ、複数部署に傍聴を呼びかけた」と回答があり、17日夜、「今後はもうしない」とする正式な書面回答がなされた。市教委自ら、動員には問題があったと認めたのだ。 そして、専門家への取材依頼や、記事の準備を進めていた5月21日の正午前。課長から突然「本日午後発表する」と連絡が入った。聞けば「質問状が届いた7日以降、内部で傍聴動員の適切性について検討を進めた結果だ」という。取材が契機にもかかわらず、記事を封じるようなかたちでにわかに発表となったことに強く抗議し、準備していた記事で報じた。 ▽「結果的に加害者を守っているように見えてしまうかもしれないが、被害者側の視点に立っている」? ふたを開けてみれば、共同通信への回答では「回答できない」「記録は取っていない」としていた、動員開始時期や、動員対象事件が何件あったかも、記者会見では公表された。2019~2024年度にかけて、4事件、計11回の公判に1回当たり最大50人を送り出していたと陳謝した。
市教委は記者会見後、2024年1月30日付で「関係部長」宛てに出された「協力依頼」の文書を公開した。 「教職員による不祥事事案にかかる公判が2月に予定されています。当該事案は、児童の人権に関する事案であり、被害児童保護の観点から、部外者による児童の特定を避ける必要があります。つきましては公判の傍聴について、職員の動員をお願いします」 その上で、注意事項を記していた。 ・関係者が集団で傍聴に来たことをわからないようにするため、裁判所前の待ち合わせは避けてください。また裁判所内で、お互いに声かけや挨拶(会釈を含む)などはしないようにお願いします。 ・ドアが開いたら入室し、1番前の列から座り、席を埋めてください。 ・裁判所内や裁判所近くで、被害者名や学校名などの口外は控えてください。 動員が明るみに出ないように指示しており、身内の事件を外部に知られまいとする強い意志がうかがえる。 「憲法が定める〝裁判公開の原則〟をないがしろにしたのではないか」―。各社から厳しい質問が相次いだ会見は2時間半以上に及んだ。被害児童・生徒の保護目的と言いつつ教員以外から性暴力を受けた場合には傍聴動員をかけていなかったことや、動員による傍聴を業務として扱い職員に交通費を支給していたことも露呈した。