住宅街の角にある扇形の変形地。人気建築家が考え出した幅わずか1mの庭の小道によって予想以上の効果が…!
パノラミックに豊かな緑が広がる印象的なリビングダイニング。ここは建築家の前田圭介さんが手掛けた住宅。住宅街の角地に位置する35坪ほどの敷地で、広々とした庭をつくることは難しい土地でした。 【写真で見る】幅1mの通路のような小さな庭がもたらす心地よさとは? 「敷地的に庭に大きなスペースを割けなくても、坪庭でもいいから緑を取り入れるだけで景色が全然違うんですよ」と前田さんは語ります。この家も幅約1mという小さな庭によって、敷地以上の空間の広がりを感じられます。
開口から顔を出すグリーンが、住まいと街をつなぐ役割に
広島県福山市を拠点に活躍する建築家、前田圭介さんは、これまでに手掛けたほぼすべての建築に緑を取り入れてきました。 「緑は日々姿を変え、暮らしの中にささやかな驚きや彩りを与えてくれる、欠かせない要素です。建築と庭を同等の存在だと思っているので、いつも最初の設計段階から緑を入れることを想定してプランを考えています」と前田さん。
敷地は北東側がカーブする道路に面した特殊な形状。敷地境界のギリギリまで壁を立て、広さを確保すると道行く人との距離感が近すぎて住まいとしての心地よさが得られません。そこで前田さんは、建物のカーブに沿うように幅約1mの小道のような庭を配して、室内を緑で包み込むプランを考え出しました。 この庭が豊かな景色を生み出すだけでなく、外部と内部をつなぐ役割も果たしています。敷地境界上に立つ5.8mの土壁は足元を70㎝浮かせ、さらに大小さまざまな開口を設けるなど外に対して閉じきらない設計に。
植栽は造園家である荻野寿也さんに依頼し、幅が狭い庭の形状に合わせてアオダモなど、幹周があまり大きくならず縦に伸びていく樹種を中心に植えました。 「境界を感じさせない建築をつくりたいと思っても、当然ながら建築は物理的に境界を越えることはできません。越えていけるのは植物だけなんです」と前田さん。 外観を眺めると正方形の開口部から木々が顔を出し、道路側の壁にもアートのように葉の影が。まさに植物の存在によって内と外のボーダーが曖昧になり、土壁と緑に守られながら外への広がりも感じさせる住宅が実現しています。