「トランプ2.0」でインフレが再燃する決定的理由とは?
来年1月から始まるトランプ第2次政権(トランプ2.0)の政策キーワードは、報道されている通り、関税引き上げ、減税、行政スリム化&規制緩和、反移民の4つだ。とりわけ公約の通り関税の大幅引き上げが実施されれば、インフレ再燃が予想されることをエコノミストや予測機関がすでに示している。 そうした予想を反映して10年物米国債利回りは、今年9月の利回り底値3.6%から足元では4.4%前後まで上昇した。ドル円相場もこの日米金利格差の拡大を反映して1ドル140円台から150円台へドル高基調に戻った。 しかしながら減税と関税の引き上げ(対中国)は、2017年1月~21年1月のトランプ第1次政権期(トランプ1.0)でも行われており、そのときは問題になるようなインフレの高進は起こらなかった。なぜトランプ2.0ではインフレになるのか?どの程度のインフレ高進になりそうか?今回はその点を中心に分析、解説しよう。 結論を先に言うと、2017年1月~21年1月のトランプ1.0と2025年1月からのトランプ2.0では、米国経済の景気循環のステージが異なっている。このことに注目する必要がある。2017年の時点では米国経済はまだフル稼働には至っておらず、マクロ的な需給関係は需要不足気味だった。 ところが2024年の現在では米国経済はすでにフル稼働であり、景気回復過程の終盤に近い。そこに減税と関税率の引き上げが加わると、物価上昇(インフレ)が再加速するのはほぼ必然に思える。それは2026年11月の中間選挙にも影響を与えるだろう。
● 2018年トランプ減税の延長 まずはトランプ2.0で減税と関税がどう変わる見込みか、ざっくりと整理しておこう。トランプ1.0で実行された2018年施行の「減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)」は、個人税制から法人税制にまでわたる。特に個人税制に関する減税処置の多くが2025年末までの時限立法だった。トランプ氏はその延長を公約しており、その場合は2025年から2034年の10年間に4.6兆ドルの財政赤字が生じると議会予算局(CBO、2024年5月8日付け報告)が試算している。 ただし減税案の詳細は提示されているわけではないので、法人税の引き下げなど他の減税処置が追加されると10年間で最大8兆ドル余に減税規模が膨れる可能性がある。2023年の米国の名目国内総生産(GDP)は27.7兆ドルなので、比率(29%)で見るとその規模の大きさが実感できるだろう。今の日本の名目GDP約600兆円に換算すると、8兆ドルは10年間で日本の場合174兆円の減税に相当する。 しかし「大減税と言ってもすでに実施されている減税の延長が中心になるならば、経済へのインパクトはあまりないのではないか」と思う読者もいるだろう。ところがそうでもない。米国の連邦財政については、2018年のトランプ減税にバイデン政権による新型コロナ対応の各種財政支出が加わり、2023年の財政赤字はGDPの6.2%に拡大している。 これは1994~2023年の財政赤字平均値3.8%の1.6倍(GDP比)だ。現在の枠組みが継続した場合、CBOの最新予測では連邦政府の債務残高は、GDP比率で2023年末の118%から2054年には166%に膨張すると見込まれる(CBO “The Long-Term Budget Outlook:2024-2054” 2024年3月)。しかも、この見通しにはトランプ2.0の減税は含まれていない。 世界最大の対外純負債国である米国の急膨張する連邦政府債務を米国の民間部門と米国以外の世界が、どのようにファイナンスするのか。控えめに言っても将来的な不安定さを覚悟せざるを得ないだろう。 ● 消費者に転嫁される関税の大幅引き上げ トランプ1.0での関税引き上げは対中国であり、米国通商法301条に基づいて2018年7月に賦課が開始された第1弾から2019年5月13日に公表された第4弾まで打ち出された。ただし、この第4弾を含むそれ以降の関税引き上げ処置は実施されず、2020年2月に米中貿易協定が発効している。ともあれ、発動された第3弾までの対中国関税で、対中国輸入額(年間約5000億ドル)のうち2000億ドル相当を対象に関税率は25%になった(補注1)。 結局、2022年時点において、対中国の実効関税率(輸入総額に対する関税収入の比率)は12.8%、中国以外からの輸入に関する実効関税率は0.8%と試算されている(補注2)。 今回、トランプ氏は対中国で60%、その他諸国一般でも10%の関税を公約している。トランプ支持者の多くは、「米国が輸入に課す関税は貿易相手国の輸出業者が負担するコストになる」とイメージしているのだろうが、それは間違いだ。